「ただいま帰りましたー」
藤間学園にて。施設職員に声を掛けると担当の雄飛 佐々(ゆうび ささ)がこちらを向いた。
「・・・お帰りなさい。買い物、無事に済んだの」
無表情で冷たい印象の美貌。
硬い声で質問されると低年齢の児童の中には泣き出してしまう子もいると聞く。
(こーゆーのって、ツンデレじゃなくてツンドラって言うんだよね)
「はい。私の部屋、来ます?」
今日の買い物は雄飛に頼まれた物も含まれている。
大きな荷物というわけではないけれど、自分の自室でゆっくりすることは雄飛にとっても嫌なものではないだろう。
驕りじゃない。
「・・・先に行ってて。用事が済んだら行く」
素直な彼女はきっと見た目よりずっと暖かくて、深い。
それが良い事なのかは知ったことじゃないけど。

「何この金額」
本の代金諸々を告げると、くっきりと雄飛の眉間に皺が寄った。
「雄飛さぁん。美人が台無しですよー」
ケラケラと笑いながら煙草を吸うと溜息を吐かれる。
「なまえ、確かに学園長に書籍購入の許可は取った。けどね、多分こんな額するんだったら次からは電子書籍の購入しか出来ないわよ」
「うーん。やっぱり?」
(窮屈だなぁ。まぁ寄生してる身分としてはだいぶ優遇されてる方か)
「監獄の誕生とか、1984年も買いたかったんだけどなぁ」
「諦めなさい。ところで、頼んでた物は?」
「あ、はいはい」
紙袋から煙草のカートンを3つ。そして卵と調味料を出した。
それを見て綻ぶ雄飛の顔を見ていると、いつもこうだったら他の人だって絡みやすいだろうにと余計な事を考えてしまう。
「あ、約束。1カートンくれるんですよね」
「もちろん」
「っしゃ!・・・ところで、これ全部何に使うんです?卵爆弾?」
「・・・料理よ」
せっかくの親しみやすい美人が一気に雪の女王に変わる。
失言だったかと後悔なんてする訳ない。ちょっとからかっただけだ。
先日からとある男性の胃袋を掴もうと悪戦苦闘している彼女に微笑ましい気持ちにもなったけど、煙草もその人の為にとか言ってて引いた。
よくは知らないけど好きな人だろうと予想していたが、もしかしたら恋人なのかもしれない。
その彼に渡したいから煙草を買って来てくれないか、と頼んできた日の事を思い出して苦笑。
てっきり喫煙に対して咎める気だと思っていたけれど。
思ったより親しみやすい彼女。
今ではこの施設の中で一番扱いやすく大好きだ。
そんな事を考えると大きな咳払いの音が聞こえて、呆れる。
「・・・何やってんですか」
「あ、その・・・どんな味なのか興味があって・・・」
(健気キャラとか男受け良いんだろうけど・・・なんかずれてるよね)
雄飛の手にはSPINEL。
真面目な彼女がそれを吸っている姿は違和感を覚えるが、まぁ、恋する乙女は盲目だ。
恋のお相手は煙草を見る限り不良っぽい印象で、雄飛と対称的なんて思っていたけれど・・・彼女も大概だ。
だからこそ、端から見て笑える。
「そう言えば、15時から園長先生に呼ばれてるんですけど。何でか知ってます?」
ふと時間を確認し、15分も無いとげんなりする。
「あら、言ってなかった?親権者の面談よ」
「・・・あー」
(聞いてねー。まぁ聞いててもどうでもいいけど)
自分の身請け人は未だ決まっていない。
園長としてはこんな成人なんて早く追い出して新しい児童を引き取りたいだろう。
只でさえ燃費の悪い自信がある。
「こんな問題児を引き取るのはどんな人かしらね。園長の反応からして・・・富裕層っぽいけど」
なんだか言い返したくなって「私が問題児になるのは雄飛さんの前ですよ」と、甘く囁くと鼻で笑われた。




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