藤間幸三郎が公安の手に落ちた。
それを聞いて心底残念に思う。
(でも、奇妙だな・・・)
先日、藤間幸三郎が殺した執行官。
その携帯端末から公安局のデータベースに潜り込む事には成功したが、処刑や拘留の記録が残っていない。
その結果に槙島聖護は違和感を感じていた。
けれど・・・新しい玩具を見つける事は出来た。
犠牲者、佐々山光留の携帯端末。
生体認証が必要な刑事課用のものとは違う、個人的な連絡先。
その中にあった名前に、藤間幸三郎の言葉を思い出す。
興味を惹かれ、次いで個人情報も収集すれば・・・結果を見た時の驚きを思い出して自嘲した。
『嘘というものがなければ、人は絶望と退屈で死んでしまうだろう』
彼女はアナトール・フランスを知っているだろうか?
きっと自分の退屈を紛らわせてくれる存在。
(藤間なまえ)
山田花子なんてふざけた偽名をすらすらと述べた口、知人が死んでも一切濁らないサイコパスの癖に、無知な家畜として振舞った姿。
きっと彼女は呼吸するのと同じ様に嘘を吐くのだろう。
この世界にいる家畜達と違い、彼女は人間らしくて面白い。
驚くほどに大胆。
まるで力強い小さな火。
扇島の老人が言っていた少女もきっと、彼女と同一人物だろう。
命に関わらない程度とは言え、彼が負った火傷の痕はもう癒えない。
シビュラシステムに取り込まれた人間にしてはやや過激な行為。
調べると彼女は、最初公安に保護された時も監視官の目の前で放火紛いの行為に及んだらしい。
(興味は尽きないな)
ゆっくりと画面越しにその輪郭をなぞる。
彼女は見たい世界があるのだ。
藤間幸三郎は言っていた。
(君は、何を見ている?)
心の中で彼女に問い掛け、微笑んだ。




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