(・・・なんか狡噛さんの様子おかしかったな。思春期?・・・いやまぁ当然か)
通話終了後、
狡噛とのやり取りを考えて僅かに戸惑う。
思えば最初狡噛に会った時。
結構危ない事をしてしまった気がするが、それでもこうやって大事な事は教えてくれる。
人として向き合ってくれているのだと、思う。
自分よりも遥かに真摯だ。
(でも・・・きっと狡噛さんも、もうすぐ施設に行っちゃうんだろうな)
この世界ではシビュラの判定に全てが委ねられている。
狡噛がどれだけ真摯に佐々山と向き合い、どれだけ人間らしく犯人を捕まえようとしても、その過程として犯罪係数が上昇すれば結果は拘束だ。
(本当に、人間味に欠けた世界ですこと)
乾いた笑いが喉に張り付いて、不快だ。
ゆっくりと立ち上がりコーヒーでも飲もうと考えていると、訪問を知らせるチャイムが鳴った。ホロアバターは電源を切っている。
この時代にしてはややアナクロだが、悪くはないと思う。
「はーい」
扉の向こう。
どうせ施設の職員だろう。
教育カリキュラムに消極的で怠惰を貪る自分にやや不信感を抱かれている気もある。近頃、進路の事で探りを入れられている気もしていた。
大体もう、自分に個人的に会いに来る存在はいないのだし。
そう思っていたし、実際にそこに居たのは施設の職員だったのだけれど。
施設の職員の言葉に、首を傾げた。

「こんにちは。公安局の青柳です。藤間なまえさん、ですね?」
(・・・あぁ、思いだした。ロミオとジュリエットか)
前下がりのボブヘアー。どこか冷たい印象のある女性と、短髪の、こちらは柔らかい印象の男性。
自分に面会に来たと言う彼らに見覚えがあるなとは思っていたけれど、公安の人間と言う言葉に合点がいった。
「公安の刑事さん・・・ですか」
椅子に座り、彼らを見比べる。
神月はともかく、青柳の綺麗な顔には似合わない充血した目。
どこか疲れているような姿。
(美人って疲れてると、なんか違った凄みがあるんだなぁ)
なんて他人事のように考える。
「それで、用件は何でしょう」
「先日、この通報をしたのはあなたですね?」
青柳がデバイスを操作し、メール画面を表示する。
内容は、自分があの日自室に向かう道すがら送ったものだ。
「あぁ、ちゃんと届いていたんですね」
そう言えば、自分の通報について狡噛は何も詮索してこなかった事を思い出す。
なるほど、情報はここで止められていたのか。
けれども止められていた、という事は。
きっと活用してもらえた筈だ。
佐々山の救出ではなく藤間の逮捕に。
(役に立たねーなぁ・・・公安も、私も)
「藤間幸三郎とは、どういった関係ですか」
「関係も何も・・・以前この学園の創立記念の式典で一度会っただけですよ。
ただ、園長先生の薦めでお話はしましたね。その時・・・変な勧誘を受けたんです
僕のお姫様になってくれる?と・・・連絡先は教えられていたんですけど、それから何度か、変なメールが届くようになって・・・」
青柳の目を見つめたまま、声を潜める。
こういう時、視線を外したら駄目だ。
佐々山への人生相談とは訳が違う。
嘘を吐かないと、自分の身が危ない。
飼い殺しはごめんだ。
「それでもね、あの日は珍しく変な時間に連絡が来たんです。なんだかおかしいなって。
気持ち悪くて連絡先もメールも消したんですけど・・・それでも気になって、通報を」
「ずいぶん悩まされたようね?」
「・・・え?」
いきなり砕けた口調になった青柳に、一瞬反応が遅れた。
鏡見てないの?と苦笑する青柳は続ける。
「目の下の隈。酷いわよ?それに泣いた後みたいに充血してる」
(その言葉、そっくりお返ししますよおねーさん)
「いえこれは・・・そうですね。病気だったんです」
苦笑して、目元を押さえた。
「病気?」
「ええ。ある一人の人間のそばにいると、他の人間の存在など全く問題でなくなることがある・・・なんて、ロマンチスト過ぎですかね」
いきなり変わった話にどう返せば良いのか分からないのだろう。
「恋患いってこと?素敵ね」
そう繋げる青柳に、隣で神月が苦笑している。
(お気に召さなかったのかなー)
「だからね、正直もう藤間幸三郎とかどうでもいいんですよ」
この話は終わり。
公安も、藤間幸三郎に興味を持っていないと分かれば引き取って頂けるだろう。
「その男とはうまくいきそう?」
神月の言葉に肩をすくめる。
「いや、きっと駄目ですね。ガキ扱いしかされませんし。
まぁ、私の愛の告白は、知人が届けてくれるんで期待せずに待つ事にします」
「知人?」
「はい。明日葬儀らしいんで返事は・・・私が勝手に解釈しますよ」
がつん、と青柳が神月の足を蹴ったのが見えた。
(仲いーなー。うらやましくは、ないけど)
「その、ええと。ごめんなさいね」
「そんな、謝らないでください。大丈夫、色相だって、濁ってませんし」
頭を下げる青柳に慌ててそう告げると、彼女はどこか困ったように笑った。
「心とサイコパスは別物よ」
(・・・おいおい)
「えっと、それってどう言う・・・?」
「青柳監視官。もう良いんじゃないですかね」
青柳の失言に、本人より先に気付いたらしい神月の言葉。
彼女自身も取り繕うように「そうね。藤間なまえさん、時間を取らせて済みませんでした」と続ける。
「あ、いえ・・・こちらこそ、大した話も出来ずにすみません」
慌てて立ち上がり、頭を下げる。
(でも、そうだな・・・こと自分に関しては、色相と精神状態は一致してないと思う)
無知な豚でいても、他人を嘴で突いても、変わらない。
なら自分は死んだようにだけは生きたくない。
立ち去る2人を見つめながらゆっくりと拳を握り締めた。




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