事件は何も終わっていない。
にも関わらず捜査は打ち切りとなった。
執行官に死亡者を出し、重要参考人の桐野瞳子も脳機能が損傷し情報が得られない現状で、ただでさえ人手不足の公安局の人員はこれ以上割けない。
組織の理論として間違っていない事は分かっている。
分かっている、つもりだ。

佐々山は死体で発見された。
ホログラムの広告の裏側。人体のパーツがバラバラに組み合わされた状態のオブジェ。切断された両腕に支えられる切断された首。両目にはコインが埋め込まれていた。
葬儀は明日行われる。
狡噛慎也はデバイスを操作し、目的の人物へ回線を繋げた。
『はぁい』
ややあって聞こえてきた気の抜けた声。
「藤間なまえの連絡先で合ってるか?・・・狡噛だ」
『・・・ああ、狡噛さんですか。お久し振りです。どうしたんですか?』
電話の向こうの声はやや掠れている。
寝起きだったのだろうか。いつもより反応も遅い。
それでも、用件は言わなくてはならない。
「・・・佐々山が、死んだ」
電話の向こうは、無音だった。
状況が飲み込めないのだろうか。
それとも理解したからこその絶句か。
「公安で起こった事だ。詳しくは言えないが・・・葬儀が明日ある」
『葬儀・・・ねぇ』
酷く、冷たい声だと感じた。
いつもの愛想がいい少女が発したとは思えない声。
佐々山の死に様がフラッシュバックし、思わず言葉が出なくなる。
けれどなまえはどこか嘲笑するように続けた。
『教えてくれてありがとうございます。でも、一昔前の葬儀って、死に顔と対面したって聞きますけど・・・公安の?事件に巻き込まれたんですよね?・・・私、もう、佐々山さんに面と向かって会えないんですよね?じゃあ私・・・行く必要ありませんね』
そう続けたなまえの声。
そこでやっと、その声が震えている事に気付いた。
佐々山と仲良く談笑しているなまえの姿を思い出す。
現在ではクリアカラーのサイコパス。廃棄区画で過ごしていたにしては良好な学習能力。
(こいつは、佐々山の死を理解している)
理解しているからこその態度。
どちらかと言えば攻撃的で、挑発を含んだと言ってもおかしくない言葉遣い。
この間まで未成年だった少女だ。
「・・・後悔しないか」
問いかけるとデバイスの向こうで、自嘲気味に笑う声が聞こえた。
『だってそこで、佐々山さんに逢える訳じゃないんで。・・・あ、でも一つだけお願いがあるんです』
妹さんの写真、棺の中に入れるの忘れないで下さい。
その言葉に
(あいつ、そんな事まで話していたのか)
妹の存在すらずっと隠していた佐々山が、この少女にそれを伝えていたと言う状況。
『俺は、女好きが高じて潜在犯落ちした男だぞ』
佐々山の口癖を思い出して苦笑してしまう。
思えば佐々山の死後、久しく忘れていた笑み。
きっと自分はそこまで気が回らなかっただろう。
電話してよかった。
そう考えていると『狡噛さん?』と、どこか戸惑ったような声が聞こえる。
『あの、えっと・・・言い訳がましくなるかも知れませんけど、私佐々山さんの事大好きですから、その・・・葬儀に行かないって言うのも佐々山さんの事を真剣に考えた結果と言いますか・・・』
どうやら何も言わない自分に戸惑っているらしい。
いつも礼儀正しい彼女の、珍しくしどろもどろな喋り方がどこか新鮮で。
『いや、悪い。そうじゃないんだ。佐々山へは、ちゃんとあんたのメッセージも伝えるよ』
熱烈な愛の告白も。
そう言えば「え、あ、はい」となんとも間の抜けた返事。
それにまた、笑った。




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