心の中ではどうしようもない程思考が空回る。
(ねぇ、佐々山さん。私はこの世界でどうしたらいいのかな)
例えば・・・そう。
自分が今、バッグの中の鋏を藤間に付き立てればこの結末は変わるのだろうか。
考えて、否定。きっと無駄だろう。
仮にも成人男性に自分が向かっていって勝てるとは思わない。
まして相手は顔面が判別できないほどに佐々山に殴られても反抗できる殺人鬼。
扇島の老人相手に放火した時だって確かに、殺意はあった。
自分が死ぬぐらいなら、お前が死ね。と。
なのに老人は軽症で済み・・・物語の通りに桐野瞳子を排除した。
人間はそう簡単に死なない事だって理解している。
だけどきっとそれだけじゃない。
必然。
あらかじめ決められていた、道筋。
分かっている。
ここで自分が藤間幸三郎に向かっていってなんになる?
(・・・ちょっと、落ち着こう)
幸い藤間はこちらに気付いていない。
イレギュラーな自分が何をしても変わらないとしても。
人が生きている。それを自分に見せた佐々山を助けたいと思うのは人として、当然の事だ。
ゆっくりと、息を吐く。
頼みの綱、佐々山のスタンバトンはあまりにも遠い位置にある。
鋏一つで勝てるとも思わない。
ライターは先ほど扇島の老人の所で放り投げてきた。
予備の物もあるがヘアスプレーとの組み合わせは正直、今使いたくない。
とすると、
(・・・狡噛慎也)
公安の刑事に、助けを求めるのが妥当か。
補導されたらその時だ。
(今更だけど、狡噛慎也の連絡先聞いとけばよかったな。まぁ・・・今更か)
保身に徹底していた自分に笑ってしまう。
そうじゃなければ今すぐに狡噛慎也にここの位置情報を伝えられただろう。
きっと本当のあらすじとは違う結末を迎えられたかもしれない。
それが出来ない状況が織り込み済みなら、とんだ皮肉だ。
死んだように生きたいと、思った自分。
今更ながらに思う。
(死んだように生きるなんて、そんなのごめんだ)
佐々山がそうであったように。
思えば最初、佐々山に会った時こんな風に心を動かされるなんて思っていなかった。
あの時はこの世界に来たばかりで、その場に居たのは桐野瞳子だった。
今佐々山の傍にいるのはお姫様じゃなくて、王子様。
なんだか無性に、笑える。
(でもお願いだから、今回はこっち見ないでね。佐々山さん)
佐々山は桐野瞳子の結末を、多分知らない。
そこに一般市民の自分が割り込んで、もし・・・もしも自分が殺されるような事になれば、余りにも品がない。
だから自分はこの場を離れる。
公安局の刑事に助けを求める為に。
桐野瞳子が出来なかった事をするために。
(じゃあね。佐々山さん)
願わくは、また逢える事を。
最後に佐々山の姿をしっかりと目に焼き付けて、その場を離れた。

勿論、その後佐々山に逢える事は二度となかったが。




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