この世界に来て間もない頃。シビュラシステムについて考えた事があった。
『成しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩寵である』
これがシビュラの謳い文句。
差別化された人々は生まれながらにシステムの枠組みに取り込まれていて、システムが示す道こそが正しいとされている。
『人間は考える葦である』とは有名なパスカルの言葉だが・・・この世界の人々はどうだ?
思考はシビュラが示す選択肢の中でのみ行われる事。
シビュラシステムという籠の中で社会が与えてくれる餌。
他の鳥を傷付ける嘴は断ち切られ、最悪殺処分にされる。
パスカルの言葉になぞらえるとひどく人間味に欠けているな、と思う。
それが原因だろうか?
この世界の人々に対して感情が希薄になってしまうのは。
本音を曝け出す気にもなれないのは。
(でも、佐々山光留は違う)
獲物を刈る猟犬。鎖付きでも佐々山は自分の意思で行動している。
だからこそ本音を言った。
周りから見ればそうは見えないかも知れないが、あんな風に甘えた。
世界で一番好き、と言った言葉には語弊がある。
この世界で会った人々の中で一番人間らしいのが佐々山光留だった。
(だから・・・ここに来た)
何かが燃えるような匂い。
散乱したガラス片。
満身創痍の2人の男。
藤間幸三郎と佐々山光留が、確かにそこに居た。
けれど、佐々山の姿を見て思考は一瞬で白く染まる。

佐々山は笑っていた。
後ろ手に拘束され、上半身を剥き出しにされ、左目は潰されたか抉られたかで真っ赤に染まり、もう一方の拘束された足は関節がぐにゃりと曲がっている状態で。
それでも、笑っていた。
煙草を噛み締めた歯を剥き出しにして、不遜な態度で、笑っていた。

がん、と脳味噌ごと思考を殴られた気になった。
自分はここに来て、何をするつもりだったのだろう?
傍観?高みの見物?
佐々山が自分に真摯に向かい合ってくれたように、その思いに答える事も出来るのかもしれないと本気で思っていた・・・とんだ驕りだ。
“生”と言うものをまざまざと見せ付けられた気がした。
死んだように生きたいと思った自分に、見せ付けられるかのような佐々山の凄惨な笑み。
(・・・こんだけ動揺、してるのに・・・額縁の外の世界なんて、ばかみたいだな・・・私)
ようやく、思考が再開する。
額縁の向こう側を標本に?
確かに自分は佐々山のこの姿を見るためだけにここに来た。
それは変わらない。
だけど・・・自分は芸術家でもまして写真家でもない。
(標本なんて勿体無い。この場意外に、佐々山光留の姿を残すなんて無粋だ)
考えて、音もなく笑った。




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