(に、しても・・・本当に手詰まりだなぁ)
気を取り直して、辺りを見回す。
センバの邪魔、で気が動転していたせいもある。
自分の居る場所がどこか分からない。
まさか自分が気付かない間にこの物語が終焉に向かっているとは考えたくない。
けれど、このままここで歩みを止めていたら本当にそうなってしまう。
・・・それで良いのかも知れない。
ふと思った。
藤間幸三郎による猟奇殺人は既にもう3人目。順当に行けば今日辺りに、4人目の犠牲者が出る。
それがこの世界の本当だ。
異質なのは自分の存在だけ。
その自分だって、何かを引き起こそうとしなければきっとこの世界に埋もれるだろう。
搾取され、それが当たり前の存在になればいい。
死んでるように生きさえすれば、この世界は安寧と安らぎに満ちている。
この世界は完璧を目指した社会、そして確かに完璧に近い形で存在している。
犯罪係数さえ悪化しなければシビュラの恩恵は自分にだって与えられるもの。
(死んだように生きる・・・ねぇ)
やはりもう、帰ろう。
この場所から離れて自室に戻ろう。
寒空の下を歩き回ったせいで随分冷えた。
億劫だが今日は湯船を溜めて、忘れないように右手の火傷を冷やして、そしてぐっすり眠ろう。
佐々山の死を知らされるのはつらいかも知れない。
けれど、それだけだ。
今更自分が行った所で変わらない結末。
この世界の行く末。
どうだっていいじゃないか。
自分さえ幸せならそれでいい。
惨殺死体も、悲劇も、テレビ越しの世界で十分だ。
刹那――、考えていると大きな音が聞こえた気がした。
(きっと、気のせいだ)
自分が関わるべき世界じゃない。
犯罪者にも白い男にも標本事件にも佐々山光留にも。
あの時佐々山との話で絆された自分が、おかしかったのだ。
普段どおりなら、今までどおりなら。
元居た世界の善良な市民らしく、見て見ぬふりができたはずなのに。
(出来なかったのは・・・佐々山光留の事、本当にこの世界で一番好きだったから)
勿論、今の所、という条件付きではあるが。
けれどそれも過去形だ。
自分の想像通りなら、先ほどの轟音は藤間幸三郎の起こした爆発だろう。
佐々山光留はきっと今、虫の息。
その場から逃げられた桐野瞳子もその内センバに捕らわれる。
助けを呼ぼうと必死で走っても、佐々山のために転んでも再度立ち上がろうとしても。
「あっ」と、女の声が聞こえた。
続く「お嬢さん」と言う声には聞き覚えがあり過ぎる。
ゆっくりと、物陰から声のする方を除くと桜霜学園の生徒・・・桐野瞳子の腕を、センバが掴んでいるところだった。
(なんだ。思ったより大丈夫そうじゃん)
傍観する自分の前でのやり取りは、まさしく自分が考えていたとおりの事。
左腕から上体に掛けて大きく焼け焦げた服を着た老人は、ついに自分には使う事の出来なかった注射針を桐野瞳子に突き刺した。
ゆっくりと昏倒する桐野瞳子を、無感動に見つめる。
「寝た子を起こすな・・・。扇島は『秘密』たちの揺りかごだ。槙島くんはもう少しあの男の遊びに付き合うつもりらしい。彼には世話になっていてね。悪く思わんでくれ。おやすみ、お姫様」
(ほら私の抵抗は、ただの悪あがき。どんだけ誰かを傷付けて、誰かを殺したいほど憎んでも・・・このお話は勝手に終わる)
それでも何故だろう。
思っているのに足が再び動き出したのは。
既に去ったセンバを追う事はしない。
その場に倒れている桐野瞳子を介抱する事もしない。
ゆっくりと、桐野瞳子が来た道を逆に歩き出した。




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