(これは・・・やばいよね)
必死でセンバと居た場所から走りつつ考える。
焦燥で頭の回路が焼き切れそうだった。
今回は人相手。
前回狡噛の前で自分のバッグを燃やした時とは違う。
自分が危害を加えた。
その事が、脳裏から離れない。
(にしてもなんっであんなに簡単に当たるかな・・・!反射神経鈍すぎだっつーの!)
火が直撃していなければ自分が死に掛ける羽目になっていた。
それは十分に分かっている。
ただ、余りにも呆気なく人が炎に包まれる様を見てしまったせいで冷や汗が止まらない。
多分これが原因で死ぬ事はないだろう。
引火したと言っても、服の一部分だった。
大体センバだって、桐野瞳子に危害を加える予定の存在じゃないか。
そこまで分かってるのに、後味の悪さが拭えない。
(落ち着け私・・・今はセンバなんてどうでもいいじゃん)
ゆっくりと歩みを緩め、大きな溜息を一つ吐く。
(優先順位考えろ。死に掛けの老いぼれジジィなんてどうでもいい。うん、どうでもいいんだ)
ばしん、と、気合を入れるように自分の頬を両手で叩く。
確かに自分はあの老人に一瞬とは言え殺意を抱いた。
けれど、正当防衛だ。
正当防衛。
仕方ない。
自業自得。
むしろざまあ見ろ。
何度も自分に言い聞かせると、次第に呼吸が落ち着いてきてようやく一息つく。
(うんそうだ。ジジィの事は・・・もういいや。あれで死ぬような奴じゃないでしょ。せいとーぼうえーだっちゃ。ただまぁ・・・槙島の名前出したのは本当に失敗だったよね)
先ほどのやり取りを考えて、今一度溜息が出る。
槙島の知り合いだと、確かに自分は話しの引き合いに出してしまっていた。
(あー失敗。でも・・・ま、名前も言ってないし・・・私が嘘吐いたって証拠もない。あのじーさんも扇島から出る事はないと思うし)
今すぐにどうこうなる可能性はきわめて低い。
言うなれば今までと一緒だ。
槙島聖護への警戒を怠らない事に注意すれば良いだけ。
ただ、思う。
普通に考えて自分は一般人。サイコパス測定でも分かる通り善良な市民。
シビュラの傀儡になるにはまだ暫く慣れないが、それも時間の問題だろう。
ここで生きていくには、善良なシステム、完璧な社会の一員になる必要がある。
そこまでこの世界に順応しようとしている自分に、果たして槙島聖護が興味を覚えるだろうか?
(きっと、大丈夫)
例えば色相が濁りそうな・・・そう、放火や窃盗、行き過ぎた正当防衛がバレさえしなければ。
槙島聖護は自分に危害を加える存在にはならない。
そこまで考えてようやく、思考を切り替える事にした。




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