昨日槙島と出くわした事もあったので、本心ではあまり扇島をうろつきたくはなかったが仕方ない。
こそこそと辺りをうかがいながら、中心部の方へ足を伸ばす。
この間送ったメールには結局、『ガキは寝てろ』という短い文句が返って来ただけだった。
そして今日。
佐々山の面会がなくなって3日目。
足を棒にして扇島を歩き回り、日中の睡眠時間も多い事から職員に疑いを持たれている事もわかっている。
それでも今日は特に、引き返せない。
扇島の付近に警備された大量のドローンを含めても、嫌な予感が脳裏を駆け巡っている。
けれど元々どこかで予想していた事。
(あーめんどくさぁ。何がって私だよ。今更何考えてんの。いい人ぶんな。クリアホワイト槙島聖護見習え)
ガラにもなく自己嫌悪に陥りそうになり、マフラーに顔を埋め大きく溜息を吐いた。
覚悟はとっくにしている。
いずれ死ぬ人間だと分かっているからこそ、あの時自分の気持ちを少しとはいえ曝け出した。
佐々山に関しては出会ったときからイコール死人で結びついていたとはいえ、それでもやはり人が死ぬ事をすぐに受け入れられるかといえば難しい。
(まぁ、私もどこに行けばいいのかなんて分からないけど。今更後戻りも出来ないんだよなぁ)
既にドローンは扇島を包囲している。この場を離れようとしても、補導程度はされる可能性が高い。
なんで学園を抜け出して扇島に来たんだろうなんて、後悔した所でなにもかも手遅れ。
それならば、当初の目的を果たさなければ。
藤間がくれた地図はあのメールが来た時に破棄した。
内容は扇島製鉄所など中心部の記載もかなり詳細にしてあった。
自分が目指す場所はきっと、この近くにある。
(今更だけど、武器があったほうが良かったかな)
バッグの中身を考えて若干の不安。
一応前回の経験を考えてライター、ヘアスプレー、鋏は持ち込んだ。
けれどこれだけで良かったのか。
猟奇殺人鬼に関わる可能性。
公安の刑事に見つからないように辺りを伺いながらも、念のため鋏を握り締めた。
(しっかし本当、どこにいるんだろうなー)
場所の詳細で知っている事といえば扇島の中心部付近という事だけ。
あとは藤間、槙島、扇島の老人はきっと、居場所を知っているのだろう。
早くしないと、佐々山が槙島を見つける。
それはそれで正しい結末だ。それが自分の知っている世界のとおりだったら。
でも自分がこの世界にまだ居るのなら、せめて傍観者の立場は許されてもいいはず。
(佐々山さんのスタンバトン、チャンスがあったら盗ったろ)
ぼんやりと考えても目当ての人物が見つからないことに焦燥が募る。
早くしないと、自分の方が公安に補導されるかもしれない。
やはり藤間の連絡先を全て消したのは早計だったか。
いずれ藤間は桐野瞳子をあきらめる。
その時にもし自分が傍に居れば・・・きっと藤間は再度誘ってくるだろう。
『今度は、君が僕のお姫様になってくれるの?』と。
佐々山を殺害した後、藤間は公安に捕まる。
それまでの短い間なら藤間のままごとに付き合ってもいいかもしれない。
(だから、最後に佐々山光留に逢わせてほしいな)
藤間を止める気はない。
そんな事をすれば悪い魔法使い扱いされて、死よりもつらい拷問が与えられる。
(これが因果応報?あのおっさんに自分の境遇を嘆く事なくがんばれとか思ったから?んなもん知ったこっちゃねぇよ)
イライラしながら煙草を吸おうとした所で、ふと目の端を何かがちらついた。
気になって、そちらを凝視して、それが蜂だということに気付く。
(うわぁ危ないな・・・ん?蜂?・・・蜂!)
慌ててそちらを向けば、この真冬に居るにしてはおかしい虫が路地の奥に入っていく所。
(行く、べき?)
きっとあの蜂は扇島に巣食っている老人のものだ。
センバの方へ向かっても、藤間に出会う道が分かる保障はない。
それでもこの何も手がかりがない状況。
(だるいけど、行こう。最悪ハサミぶっ刺してやる)
もう一度鋏を握り締めて、蜂の後についていく。
それでも一つだけ忘れていた。
この世界で何度も選択を間違え続けたこと。
自分が去ったその場所の近くで、「マキシマ――!」と佐々山が白い男を追いかけていたことも知らない。





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