(お布団ひゃっほーい)
自室に帰ってすぐに、布団にダイブ。からの一服。
全身の汗が不快感を煽る。
自分のテリトリーに無事戻ることが出来たとは言え、冷や汗は中々引いてくれなかった。
(まじなんなんだよもー、あいつ槙島聖護まじ話しかけてくんなよお)
前回出会ったときとは違う。
ただの不審者だったら不快感だけで済んだのに。
この世界の『怪物』を見たような気になって、言い知れない不安感があった。
(イケメンだったら何されても許されると思うな。あほ。ばか。うんこ)
ベッドに体育座りをしながらクッションを殴り八つ当たり。
藤間幸三郎に不審者丸出しの誘いを受けた時とも、槙島聖護に始めて会った時とも違う。
それでも。
大きく深呼吸をし、再度立ち上がった。
目指すはシャワールーム。
真冬にこんな汗だくになるとは思わなかったが致し方ない。
(大丈夫。多分槙島聖護の興味は今は藤間幸三郎にしかない。うん)
あれで槙島聖護が、自分に対しての興味を持ったとはどうにも考えられない。
考えてみれば最初に興味を持たれたのだって、パスカルを引用してしまったから。
きっとその一点に尽きる。
それなら、無知な豚になれば良いだけの事。
さすがにこの時間に風呂を溜める気にもなれず、シャワーだけで済まそうと熱めの湯をかぶる。
変な汗を掻いたせいで随分と体は冷えてしまっていた。
早々に泡を流し体を拭いていると、ふと、携帯が着信を知らせている事に気付く。
「うわ」
思わず顔を歪めてしまう。
この世界で連絡先を知っている人間は少ない。
その中でもこんな時間に連絡してくるような常識のない人間と言えば・・・佐々山か藤間のどちらか。
嫌な気がしながらも携帯を操作すれば内容はメール。送信者は、藤間幸三郎。
『君の言ったとおりだったよ。
僕のお姫様はすぐ傍にいた。
もう君と会うこともないと思う。
ありがとう』
内容を見た瞬間に、独り暗闇に取り残されたような気分になった。
きっと藤間は、桐野瞳子を捕まえた。
アベーレ・アルトロマージを惨殺した。
今日は1月9日。
タイムリミットが近づいている。
文面を読み返した後、ゆっくりと藤間から来たメール、地図、連絡先をすべて削除した。
もうこれは必要ない。
むしろ、藤間と関わりのあった人間だと狡噛たちに気付かれる方が厄介だ。
アベーレ・アルトロマージの死体はまだ見つかってはいないが・・・いずれ扇島周辺にドローンが押し寄せるだろう。
(チンパンジーのおじさんに自分の境遇を嘆く事なくがんばれ。爆笑。って言えなかったのは別にいいけど・・・佐々山さんにはお世話になった自覚があるもんなぁ)
机の上には佐々山が持ってきたマカロン、マドレーヌ、フィナンシェ、ヌガー。
子ども扱いされている感は否めない。
けれど佐々山はどんな気持ちでこのお菓子を自分に届けてくれたのだろう。
だれだって人から優しく貢がれたら嬉しい。
もしそれが佐々山の手の込んだ策略だったとしても。
この世界で唯一素で喋れる人。
(・・・最後にいたずらメールでもしとくかな)
今は夜中の3時。
公安局は忙しいだろうが知った事か。
『私佐々山さんのことがこの世界で一番好きですよ(今の所)』
言いたい事は本当はたくさんある。
でも、言えない事ばかりだから。
(これぞツンデレ。自分の小悪魔っぷりが怖いわー)
心の中では軽口で。
でも、どうにか届いて欲しいと送信ボタンを押した。




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