自分が知っている事。
年明け頃、アベーレ・アルトロマージは藤間幸三郎によって殺される。
藤間幸三郎は目的以外一切興味がない。
桐野瞳子は扇島の老人に思考を殺される。
扇島の老人は、槙島の知り合い。
佐々山光留は槙島を追い、藤間に殺される。
生きたまま解剖されて展示される。

自分に出来る事はきっと、何もない。
(でもさー・・・こんな所に来たんだもん。私がそれを見たって罰は当たらないよね)
携帯に表示されるのはある写真家の言葉。曰く、
『存在している世界をまるごとつかまえることはできません。しかし写真に撮られた世界は時間の断片としてつかまえられるものになる。そうして昆虫標本のように観察できる対象にしてはじめて、世界は理解できるものになるのではないでしょうか』
この世界は近未来。自分が居た世界と似ているが、違う事の方が多く難解だ。
けれどもしもこの世界を理解出来たら・・・その時にはこの疎外感を消し去る事ができるのではないか。
理解出来ずとも少しだけでも近づく事が出来たら、きっと。
佐々山が自分に真摯に向かい合ってくれたように、その思いに答える事も出来るのかもしれない。
(あー・・・分かっててもやっぱり、佐々山光留が死ぬのはいやだなぁ。人ごとだけどー)
ぼんやりと考えながら、藤間幸三郎がマッピングしてくれたデータを元に自分の現在地を確認する。
消灯を確認した後、既に藤間学園からは抜け出してきた。
現在は廃棄区画、扇島。
土地勘がないことがどうにも気がかりだったので、練習がてら何度か抜け出してはいるが、今の所教職員にもばれずに過ごせている。
(私の抜け出し技術なめんなよ)
なんて、以前実家からしょっちゅう抜け出しでは夜の街で遊んでいた事を思い出す。
まぁ、親は知っていて放置していただけかもしれないが。
それでも、こんな平和な町の住民よりは悪い遊びも知っている自負はあった。
(私ってば人生の先輩?あーでも、ここって100年後の未来な訳だよね・・・私120歳?わー先輩どころかもう大往生してても言い年じゃん)
そこまで考えて、年齢についてもずれがあるなとぼんやり。
元いた世界は4月。ここに来たら11月。そして今はもう1月。
誕生日もクソもあったもんじゃない。
そう考えて苦笑する。
まぁ、施設職員が適当に設定してくれた誕生日はなぜか元旦。
いつの間にか20歳になっていたため、喫煙、飲酒も規制は掛かっているが合法となりだいぶ過ごしやすくはなった。
ハイパーオーツの食品は味気ない気もしていたが思ったよりはおいしいし。携帯も使える。
(なんだかんだで順応してるじゃん。私)
唯一難点なのは音楽、書籍の制限だろうか。
ダウンロードしたくても昔のものには制限が掛かっているものが多い為、暇つぶしを探すのにも一苦労だった。
(この場所に来られる間はその退屈もまぎれてくれそうだけれど)
ようやく扇島内で目印になりそうな所に到着した。
地図と睨めっこをしながら歩いていたせいで少しだけ気疲れしている。
(今日はここまででいいかな。もう帰ろうかなぁ)
気分じゃないし、そう思って踵を返そうとした時。
「君、」
(・・・・・・)
よく通る声が響いて、ぞわりと鳥肌が立った。
(不審者がいても目を合わせないようにしたら大丈夫)
視線をなるべく下に下げ、なるべく早足で。
一歩を踏み出そうとして、後ろから肩を叩かれる。
(お前の後ろだ!!・・・ってか)
観念して、声の方へ視線を向けた。
「わぁ、こないだのおにーさんじゃないですか」
(目指すは癒し系。大丈夫。私のキャラなら出来るもん)
柔らかすぎて異質な雰囲気を纏っている彼、槙島聖護に、こちらも負けじと笑みを浮かべた。




prevnext





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -