「珍しいね。君が、そういった事をしているのは」
メールの送信画面を開いている藤間幸三郎に、槙島聖護は興味深げに尋ねた。
地図内の扇島へのルートにアイコンを貼り付けて、分かりやすく表示を変更していたデータ。
そんな所を見るとさすが教師、なんて揶揄も浮かびそうだ。
「今日、面白い子に会ったんだ」
藤間の言葉に、やや驚きながら「へぇ、」と相槌を打つ。
「藤間なまえ、と言ったかな。つい先日、扇島で保護されたらしい」
「扇島か。そういえば僕も面白い子に逢ったな」
つい先日煙草を押し付けてきた未成年らしき少女を思い出して笑みが零れる。
扇島は秘密たちのゆりかごだとここの翁は言っていたが、さて、あの少女はどんな秘密を持っているのだろう。
そう考えるとまた逢うのが待ち遠しくなってしまう。
今では廃盤された筈の銘柄の煙草。そんな希少な物を持っている彼女はきっと、自分を楽しませてくれる存在の一人だ。
自分と喋る時に警戒していた様は見ていて面白かった。
また会おう、あの言葉が何時実現されるのか楽しみで堪らない。
「その子はどうして君に頼みごとを?」
「なんだったかな。見たい世界がある、とか」
(見たい世界、ね)
自分もずっと探している。知りたい事がある。
藤間の指す彼女が見たい世界とは何だ?それは平穏な町ではなく扇島でないと見れないものなのか?
(まさか・・・)
自分が出会った少女と同じとは考えられないだろうか?
彼女が居た場所も扇島だった。
だが土地勘に疎そうだった彼女が、扇島でずっと暮らしていた少女?
年齢的にもつい最近保護されたにしては高齢だし、浮浪児にしては身なりも整っていたように思う。
それに彼女は自分の言葉にまっすぐに公安の方へ向かっていった。
廃棄区画で生活する女が、そんな真似をするだろうか?
ピースが噛み合わずにやはり別人かと考え直す。
「その子はきみに、他に何か言っていたかい?」
「そうだね」
メールを送信してからずっと、ボールペンをくるくると回し続けている藤間。
思案するように顔を伏せても、その指先は止まることをしない。
「自分には自分の王子様がいる、僕のお姫様だって僕が気付いていないだけですぐ傍に居る。とか」
「その子は君の申し出を断った、と?」
憶測を含ませて尋ねれば肯定される。
これは一度調べて見る価値はあるかもしれない。
藤間なまえ。
小さく呟き、笑んだ。




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