今居るパーティ会場。テラス。自室。
藤間と話をするに当たってどこに行くべきか、ぐるぐる思考が廻る。
自室は危険。かと言ってほかの場所が安全な保証もないし、もうすぐ失踪するような男と一緒に居る所を色々な人に見られるのも避けたい所。
「君の部屋はどこなの?」
「・・・ここから遠い所なんです」
(はいお部屋以外決定)
やはりここらで話を済ませてしまおう。そう考えて辺りを見渡す。
「お話退屈でしたし、疲れましたよね?どこか・・・掛けましょうか」
丁度空いているテーブル席を見つけ、そちらに藤間を案内した。
「君はあそこに帰りたいとは思わないの?」
椅子に腰掛けるなり尋ねてきた藤間。
「扇島の、ことですか?」
逡巡しながらも考え、ゆっくりと思考を開始した。
相手は殺人鬼だ。しかもかなり狂気的な。
興味を持たれてはいけない。けれど悪意をもたれては死に繋がる。
(だけど、どうなんだろう?)
ふと、自分が元居た世界に帰りたいかどうかを考えて、少しだけ戸惑った。
今までは自分の置かれている環境に戸惑ってばかりで、元の世界に戻る方法を模索することもしていない。
「・・・どうでもいいのかも、しれませんね」
やがてゆっくりと、喋りだす。
「ここに来た時に、私の世界は変わったから」
「まぁ、扇島なんてなくなってもいいものね」
(・・・誤爆った。はっぴーうれぴーぐらい言えば良かった)
同意する藤間にすでに気疲れしてしまいそうになった。
これ以上は何を言っても間違えそうだ。
けれど。
(・・・世界は理解できるものになる、だっけ)
思い浮かんだ先日の言葉。
「藤間さんは、」
「君も、藤間じゃないか」
くすくすとおかしそうに笑う藤間。
(うっぜー。それがかっこいいと思ってんのかよかっこいいよちきしょー)
藤間の言葉は無視して続ける。
「扇島への道を・・・知ってるんですよね?」
「そうだね」
「見たい世界が、あるんです」
どこまでが本当か分からないこの世界。
理解できるものになったらその見方も、変わるのだろうか?
(路線変更。適当に、当たり障りなく、媚ろう。なんか思ったより話通じるし・・・わーめんどくさいフラグ)
「私に教えてくれませんか?」
「いいよ」
(えっまじで)
「その代わり君は・・・僕のお姫様に、なってくれる?」
一瞬本当に、思考が停止した。
(・・・煙草吸って落ち着きたい)
内心の動揺を悟られないように、にっこりと藤間に微笑む。
冗談など一切なく、思考回路はショート寸前。
「・・・藤間、幸三郎さん?駄目ですよ。ちゃんとあなたにはお姫様が居るのに」
(考えろ考えろ・・・あれ、何だっけこれ・・・あ、魔王だ。伊坂幸太郎。じゃなくて集中)
「僕に?」
「そうですよ。ちゃんとしたお姫様。あなたの次のお姫様」
正直一瞬だけ、顔面偏差値の高い藤間が養ってくれるのなら、結婚でもなんでもしていいとすら思った。
だけど何かあるたびに命の危機を感じさせられるような結果になるのは恐ろしい。
人間自分の身が、いつだって一番可愛い。
例えそのために若干名が犠牲になったとしても。
毎日のように来てくれる、佐々山が犠牲者に含まれたとしても。
今度は間違えないように、澱みそうになる思考を振り払い目の前の精神異常の王子様に優しい声を取り繕った。
将来的にはシビュラの一端として自分の生活を握る一部になる。
間違えば、命取りだ。
「私には私の王子様がいます」
(・・・駄目。私痛すぎる。恥ずかしい。でもあとちょっとの辛抱)
「あなたが気付いていないだけで、あなたのお姫様も、すぐ傍に居ます」
(なんだよお姫様って。基本夢見がちアイタタターの女じゃないか)
「だからこれは取引じゃなくって、お願いなんです」
ダメ押しのようににっこりと、微笑んだ。
「扇島への道を、教えて下さい」
いつも佐々山が向けてくれる笑顔と、そしてテレビ越しの惨殺死体が脳裏に浮かんだ気がした。
(多分気のせいだけど)




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