額縁の外側。
以前呼んだラノベでそんな表現があったなと、ぼんやり考えた。
数日前から職員たちが準備していた記念祝典。
思っていたよりは盛大なパーティーに参加することになり、それを愉しそうに眺めつつも思考は蚊帳の外だった。
(所詮ひとごとだよなー)
佐々山に自分の気持ちを伝えた時もそうだったが、最近になって特に思う。
自分はこの世界から隔離している存在だと。
廃棄区画から保護された後すぐにサイコパス、犯罪係数の測定を受けた。
自分の中では攻撃的になったり抑鬱した感情でいたり・・・有体に言えばストレスが溜まった状態でいると色相は悪化すると考えていた。
けれど最近の測定結果を思い返し腑に落ちない感情が溜まる。
『自分の境遇を嘆くことなく頑張れ』、壇上のスピーチに辟易した。
(がんばらなくても私の色相はパウダーブルーだっつーの)
シビュラの判定に重きを置く自分以外の人間に向けて、心の中で皮肉。
廃棄区画で保護された時の色相はミディアムブルー。犯罪係数も80台と通常よりやや高めの判定だった。
けれど自分がこの状況に悩み、ストレスを溜め続けているにも関わらず、犯罪係数はなぜか好転を繰り返している。
最近の測定値に至ってはただの真人間。この社会において虫も殺さない善良な市民だと・・・その結果に、自分が異分子だとますます感じていた。
佐々山に相談した内容は嘘偽りのない自分の気持ちだったのだけれど、あれは佐々山に対していずれいなくなる存在だと分かっているからこそ出来た事。
ほかの人間に自分の気持ちを伝える事なんて、きっともう有り得ない。
(まぁいくらストレス溜めてても、色相はクリアなんですけどねー・・・)
心の中で皮肉を思い浮かべた時。
ふと、園長と先ほどスピーチを終えていた彼、アベーレ・アルトロマージが喋っているのが見えた。
横には青年・・・廃棄区画で出会った泣きボクロ、藤間幸三郎もそこにいる。
「もし、あなたさえ良ければ、今度ご自宅にご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか?その時に僕の試みについて、お話させて頂ければ」
「勿論、かまわないよ。年明けあたりにでも」
(これはいわゆる・・・死亡フラグ)
そのやり取りに知らず知らず笑みが浮かんだ。
スピーチを聞いた時からイライラしていたせいで、このやり取りに少し胸がすっとする。
(いーね。死んじゃえ。苦しんで、死ね)
ただの八つ当たり。
人間的には間違った考えだと分かっていても、思わずにはいられない。
それでも自分にある良心がその考えに蓋をした。
(あー。絶対今顔ひきつってる。だめだ。笑顔。スマイル)
「あら、なまえさん!」
「園長先生、」
ただその笑顔は園長と顔が合った瞬間に崩れそうになったが。
声をかけられて素通りするわけにも行かず、笑顔で会釈する。
「彼女、藤間なまえさんと言って、この間扇島で保護されたばかりの子なんです!」
「この間?」
余命幾ばくもない肥えた男が、訝しげにこちらを見る。
ついでに藤間も、微笑を浮かべたままこちらを見る。
(やっべ。目が合っちゃったよ)
ついつい警戒心丸出しになってしまいそうな自分を抑え、なるべく藤間と顔を合わせないように「藤間です」と、アルトロマージに向き直った。
「さっきのスピーチ、すごかったです。みんなの前であんなに堂々と・・・
私もアルトロマージさんの言葉を今度引用してみたいです!」
(自分の境遇を嘆くことなく頑張れ。爆笑)
正直小娘と話すのもめんどくさいのだろう慈善事業家は、それでも満更でもなさそうに「そうかね?」と笑顔を浮かべている。
「藤間?」
もう一人の犯罪者は、その苗字に反応したようで少し首を傾げていた。
(イケメンって何やっても様になるなぁ。ずるい。かっこいい。っつーか話に入ってくんな)
「はい。廃棄区画でこの間まで過ごしていたので・・・苗字がなくってこの学園から」
「幸三郎と同じ苗字ね!」
(同じ言うなクソババァ)
この会話に対して思うことが多すぎてうんざりする。
それでも、無理矢理に藤間幸三郎に微笑んだ。
「そうだ!幸三郎、私たちはまだやらないといけない事があるから、少し彼女に外の生活のことを教えてあげたらどうかしら!」
(・・・は?)
ついつい信じられないものを見るような目で、園長を見てしまった。
聞き間違いではない筈だ。
「・・・そうして頂けると嬉しいのは山々ですが、藤間・・・えっと幸三郎さん?迷惑ではないですか?」
「僕は構いませんよ」
(ふざけんな)
にこやかに答える藤間に二の句が告げなくなってしまう。
そうしましょうそうしましょうと笑顔の園長。
シュールすぎる光景に、額縁ごとその風景を切り離したくなった。




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