なまえを保護施設から藤間学園へ移送。その手続きは速やかに行われた。
公安に割り振られた書類手続きも済ませ、彼女は今まさに藤間学園に向かう車内に乗った所。
「佐々山」
「あ?」
施設職員への引継ぎも終わった所で、狡噛は数メートル離れた所にいる少女を見、佐々山に喋りかけた。
「お前は・・・あいつをどう思ってるんだ」
「なまえちゃんか?おっまえあんな子がタイプだったのかよ!」
どう見ても未成年じゃねーかと軽口を叩く佐々山。
しかし、狡噛が言いたいのはそんなことじゃない。
きっと佐々山もそれは分かっているのだろう。
標本事件の2人目の被害者。アイドルコンサートに展示された少女は廃棄区画生まれ廃棄区画育ち。
捜査が行き詰っている今、何かしらの手がかりを期待してもいい筈だ。
女好きの佐々山にその考えを了承する気は更々なかったが。
公安のエリートがロリコンかと散々笑った後、仏頂面をした狡噛に気付いてまぁまぁと背中を叩く。
「保護した時から一貫して、あの子の犯罪係数は規定値を超えてない。
あんだけの事件だ。何か知ってりゃあとっくに色相は逸脱してるはずだろ」
言いながら、自分でも何かしらの違和感を感じている事は狡噛には伝えない。
14年間廃棄区画で浮浪児をしていながらメンタルヘルスが良好だった藤間幸三郎。
そして恐らく今回保護された少女は藤間より長い間シビュラの目をかいくぐって生きてきたことになる。
藤間については、産まれついてのとんでもない人格者かと考えを巡らせた。
あの少女はどうだ?
女好きが高じて潜在犯落ちした、そう自称する自分としてはその考えに諸手を挙げて賛成したい所だ。
だが最初に少女に会った時・・・狡噛に拘束された少女を見る前、廃棄区画で桜霜学園の少女と喋っていた時のことを思い出す。
なまえは・・・ただ見ていた。こちらを。
その視線はどこか無機質で、モルモットを見るような傲慢さすら滲み出ている気がした。
加えて先ほどの言葉。悪意か皮肉か。
あの少女のサイコパスが規定値内というのはどうにも信じられなかった。
(俺も焼きが回ったか)
先日、狡噛に向かって説教垂れた事を思い出す。
『見るべきは、人だ。狡噛。相手の表情、目線、息遣いや発言の変化。そういうのを見て、相手の狙いを見るんだよ。そうすりゃ自ずと、自分の進むべき道が見えてくる』
ようやく狡噛に、それから監視官という自分の仕事に、改めて向き合うことが出来た所だ。
あの少女にももう一度向き直ってみよう。
もう遠くなりつつある公安の車。後部座席の少女が、こちらを見ていた気がした。




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