「藤間学園?」
聞き覚えのある名称にうんざりしながら、それでもそんな様子はおくびにも出さずに尋ねる。
公安に保護された後、自分は徹底的に身辺の調査をされた。けれどシビュラに登録されていない自分には存在するべき身元すらない。加えて自分の名前以外の記憶にも一貫して『覚えていない』を答えれば・・・やがては大多数の人間は記憶喪失の言葉で諦めた。
けれどマイノリティというものはいつだって存在する。
自分から、行き詰った捜査の何かしらの情報を得られないか四苦八苦していた狡噛。
思っていたよりも柔軟性に欠けていたその姿に、過去編ならしょうがないかと思い直した記憶は真新しい。
まぁ記憶喪失という点でも、未成年と思しき外見の自分が廃棄区画に身を置いていたらしいという点でも、何らかのセラピーを要すると思われて今に至るわけだが。
「そう、アベーレ・アルトロマージさんって言う・・・準日本人の方が私営されている児童養護施設なの」
担当するセラピストの言葉に、逡巡。
廃棄区画で保護された身寄りのない子供のための施設はなるほど確かに、自分には都合のいい寄生先だ。
苦笑を耐え「そうしていただけると助かります」と笑顔を貼り付ける。
思ったより呆気なく手に入った衣食住に、なんだか拍子抜けした。

「お、もうカウンセリングは終わったのか?」
「あ・・・佐々山さん。お疲れ様です」
カウンセラーとの話が終了し扉から出れば、ニヒルな笑みを浮かべた執行官が自分を待っていたことに気付いた。
そういえば、自分への事情聴取は一応まだ終わっていない。
(やだなー気疲れすんだよね。仮にも相手は刑事だし)
「えっと、知ってることは・・・一応全部お伝えしたはずですが?」
佐々山の横に立つ狡噛をちらりと見て、恐る恐る尋ねる。
「ん?あーいや、聞いた話だと藤間学園?そこが身柄を預かるって話じゃねーか」
「一応重要参考人かもしれないからな。俺たちはそこまでの護衛だ」
「そーゆーこと。よろしくなお姫様」
狡噛と佐々山が交互に話す姿。なんだか冷めた気持ちで2人を見つめた。
(なんつーか、私と違う世界だな)
こに来た時から思っていたが・・・やはりここは自分の居るべき所じゃない。その気持ちが常に、自分とここの住民との間に線引きをしている。
「なまえちゃん?」
押し黙ってしまっていた自分を気遣うような佐々山の声。
はっとして笑顔を取り繕った。
「あっ、すみません・・・お二人、本当に仲がいいなぁって思って」
自分の言葉に気まずげに視線を逸らす狡噛に内心鼻で笑う。
「なんて言うか・・・生涯の友って感じですね!」
嘘を吐くつもりはさらさらない。
きっとこの先訪れるだろう2人の境遇に憐れみを感じたわけでもない。
自分が微笑を浮かべていることからも分かっている。
これはただの皮肉だ。
(私からのささやかな嫌がらせ・・・受け取ってくれると嬉しーなーあ)




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