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恋歌様より




シィンとユウはとある町に向けて旅をしていた。


「でさー…」


シィンが楽しそうに話すのを、ユウは聞いているかのような顔をしながら…聞いていなかった。



それと言うのもユウは先程からずっと視線を感じていたからだ。


どこからか、刺すような鋭い視線を。



「なあシィン。」

「んー?」

ユウはシィンの話を中断させた。


「なんか視線を感じないか?」


「視線ー?」


シィンは全く気付いていなかったようで、不思議そうに辺りを見回した。

「別に誰もいないぜ。
あっもしかして幽霊――」

シィンが全て言う前にユウの鉄拳でシィンの口を閉じさせた。


「そんなバカなことがあるわけないだろ。」

内心少し焦りながら、しかし表面上冷静を装って、ユウは後方の一角を睨んだ。


「そこにいるのはわかってるんだよ。出て来い。」


そこには長い黒髪が見え隠れしていた。


黒髪の主はビクッと震えてから、怖々と姿を表した。


そこにいたのはひょろりと背が高く、否応なしに周りに威圧感を与えてしまうような男性。


長い髪を揺らしながらシィンとユウに近付いてきた。



ユウはその男の見た目に若干緊張し、警戒心を持って目を向けた。


男とシィン達の距離が縮まったとき、ユウは臨戦態勢に入った。


しかしそれとは打って変わって、シィンは頬を緩め、そして男はふにゃりと顔を歪め、半べそ状態になってシィンに駆け寄った。

「うわーん、シィンさーん。」

「おーヘルー!!」


そう言ってヘルはシィンに抱き付き、シィンはヘルと一緒にクルクルと回った。

「どうしてこんなところにいるんだよー?」

ニコニコしながら言うシィンの質問にヘルはただ笑みを返しただけだった。


そんな様子を見て、ユウは静かに眉をひそめた。

「シィンさんはどこに行くの?」

ヘルはシィンの右袖――シィンに最も近く、ユウに最も遠い場所――を掴んで言った。


シィンさん――
ヘルの眼中にユウはいないようだった…


「俺達はこの先にある町に行くつもりなんだ。」

「じゃあじゃあ!!
僕も一緒に行って良い?」

ヘルは尻尾を振るかのような勢いでシィンに戯れ付く。

そんなヘルの様子を見てシィンは嬉しそうにヘルの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「よーし!!一緒に行くか!!
良いよな、ユウ?」


ユウは今までの2人のやり取りを見て、ぽかんと口を開けていたが、声を掛けられてハッとした。

「あ、ああ。」


些か急すぎるような気もしたが、シィンとヘルの勢いに押されてつい頷いてしまった。



ヘルの第一印象は残念ながらユウにとってあまり良くなかった。


コソコソと後を付けていたし、シィンと自分に対する態度が違いすぎた。

そして何より…


「でさー…」


シィンの話をヘルはウキウキしながら聞いていた。

しかしその間もチラチラとユウを伺うかのような視線。


勿論、視線の主はヘルだ。



「はぁ…。」

ユウは人知れず溜め息を付いた。


その溜め息にビクッと肩を竦ませる影が視界に入った。


「……。」

また感じる鋭い視線。


我慢ならなくなってユウはヘルの様子をチラリと伺った。



ちょうどヘルと視線が交わってしまった。


するとヘルは今まで以上に怯えた様子で、シィンの袖をギュッと握った。


そんなヘルの様子に気付いたシィンが若干困ったように笑った。


「そんなに怖がらなくても大丈夫だって。
こいつは良い奴だよ。」

ヘルはシィンとユウの顔を交互に見、シィンの袖を一層強く握った。














ヘルとユウの関係はギクシャクしたまま、3人は順調に歩を進めていた。


「あっ!!」

不意にヘルが声を上げて前方を指差した。


そこにいたのは一匹のオタチだった。


「あっオタチだ。
でもオタチがどうしたんだ?」


シィンが不思議そうに尋ねた。

因みにユウは先程から一言も言葉を発していない。

ヘルとどう関わったら良いかわからないからだ。



「オタチって神経質だから人里にあまり表れないんだ。
迷子かな?」


ヘルはそう呟き、オタチに近付いて行った。


「神経質だったら近付いたら逃げるだろ…。」

ユウがヘルに聞こえない小さな声で呟いたのをシィンは聞き逃さなかった。


「見てろよ、ユウ。
俺やお前には決して真似出来ない、すごいことをあいつは出来るんだから。」


シィンがとても嬉しそうに、そして自信満々に言うので、ユウは首を傾げながらも言われた通りに黙ってヘルとオタチの様子を見ていた。




ヘルはオタチと1mくらい離れた位置でしゃがみこみ、オタチのほうにそっと手を伸ばした。


するとオタチのほうからゆっくりと近付いて来て、ヘルの手に擦り寄った。



「嘘だろ…。」

ユウは漠然と呟いた。



オタチは既にヘルの腕の中にいた。




「シィンさん!!」


ヘルはシィン達と距離を取ったまま話し出した。

シィン達に近付くと、オタチが警戒してしまうと思ったのだろう。



「僕、この子を森に返してくる。
せっかくシィンさんと会えたから、残念だけど…。」


シィンは笑顔で手を上げた。


「そっか。でもそれが良いかもな。
その子を助けられるのはお前しかいないだろうからな。
大丈夫、きっとまた会えるさ。
なんてったって俺とヘルの仲だからさ!!」



ヘルはとびきりの笑顔で頷き、シィン達に背を向けて走って行った。


シィンはその背に手を振り、ユウはその背を見つめていた。












ヘルの姿が見えなくなった頃、シィンとユウは再び歩き出した。


ふと、シィンが小さな声で言い出した。


「あいつ、ヘルはさ…。
ちょっと人見知りでさ。
人と付き合うのが苦手なんだよ。
でも良い奴だぜ。
だからさ…。」


そこでシィンは一旦口を閉じたが、ユウにはシィンの言わんとしていることが良くわかった。

先程の雰囲気を考えるとユウがヘルに、ヘルがユウに良い思いを抱いていないことは明白だった。

でも実際は…


「僕はあいつのこと…嫌いじゃない。」


ユウがおもむろに口を開いた。


「ちょっと接し方がわからなかっただけだ。
だから、大丈夫だ。」


シィンは嬉しそうに笑った。



「そっか!!良かったよ。
自分の友達同士、やっぱり仲良くしてほしいもん!!」


ユウも薄く笑った。


友達――


なんと小恥ずかしく、なんて綺麗な響きなんだろう。



そんな関係に自分とヘルはなれるだろうか―。



ユウは後ろを振り返り、頬を緩めた。



「笑顔の練習でもしておくかな。」


ユウの呟きにシィンは飛び上がって驚いたが、とても嬉しそうだった。




END




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恋歌様にチュウ記念で書いて頂きました!^^
シィン君の格好良さに惚れてますー。
これからもヘルと仲良くして下さい^▽^






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