小話 | ナノ
すきだらけ
不意に後ろから抱き締められた。
僕は夕飯の支度に夢中で、背後の物音に全くと言っていい程気が付いていなかった。
「……ただいま」
「お、お帰りなさい、稲妻さん…」
耳元で疲れを滲ませた声がした。
微かに香った彼の汗のにおいが何だか無性に愛おしく感じる。
「エプロン…」
「エプロン?服が汚れたら困るのでしているだけですけど…?」
「髪…」
「??邪魔だし衛生面上問題だと思うので結んだんですけど…ってどうかしましたか?」
彼の言わんとしている事が判らず疑問符を浮かべる僕に、稲妻さんは優しく笑った。
「新妻に見えただけ…俺いつの間に煉獄と結婚したっけ、みたいなね」
「ふふ……何ですかそれ」
僕も笑う。
「…なぁ、煉獄」
「はい?」
「本当に嫁に来て…?幸せにするから」
「……―――――――――」
一瞬頭の中が真っ白になった。
今まで淀みなく動いていた手も、この言葉にぴたりと止まる。
頭は動いて、その言葉を噛み砕いて飲み込もうとしているのに、その意味は浸透していかない。
動いているのに止まっている。
身体中を駆け抜ける血流は嫌と言う程感じているのに、心臓は止まっているんじゃないかと、そんな錯覚すら覚えた。
「……なーんてね」
そう苦笑を滲ませながら、稲妻さんは僕から放れる。
何度か頭を撫でると、台所から踵を返した。
「あ、そういえば」
出ていく間際、稲妻さんが足を止める。
姿を目で追った僕に彼は遠慮なく止めを刺した。
「今言ったのは嘘じゃないからな」
綺麗な笑顔のオプション付き。
思わず手にしていたおたまを落下させた僕は、大きな不意打ちに熱い顔を手で覆う事しか出来なかった。
fin.
>正直SSSな感じで申し訳ないです。
多分2・3ヶ月くらい前に描き終えたやつですが完全にup忘れt(殴)
これからのCBを考えると今のうちにラブラブしとけよって事で。
121105