とある円卓決議会 | ナノ



「パル、お前ってさ母さん知ってる?」


いつものように突拍子もなく問われたその質問にパルキアは僅かに目を見開いた。


父は判る。彼から生まれてからこの方何千年経つのであろうか。
しかし、言われてみれば母、という存在は認知していない。


「父さんから生まれた俺等に母親など居ないのではないか?」


自分達も含め兄弟達は皆そうだ。父から生まれていない者などいない。
パルキアは何の感慨もなく、そう口にした筈だった。心なしか声が震えている気がするのは気の所為だと自分に言い聞かせながら。


「……そうだよなあ」


珍しく気のない声を発したディアルガは似合わない苦笑を浮かべる。
あの青玉の瞳が曇るところなど未だかつて見た事がないとパルキアは記憶している。

ディアルガ。
兄弟の名を呼ぼうと口を開いた瞬間、分厚い漫画本がパルキアの左耳を掠めて円卓の外へと飛んで行った。


「しょげてるなんて思ったら大間違いだかんな、バーカ。…漫画に時々出てくるから俺等にも居んのかなって思っただけ」


そこにはいつもと変わらない兄弟の姿がある。
……僅かに暗い表情以外は確かに変わっていない。

こういう時に何と声をかけてやれば良いのか。長い時を生きるパルキアでさえよく判っていない。
下手に優しいことを言えば慰めどころか逆に傷つけてしまう事もある。


黙っているパルキアを余所にディアルガはすっと立ち上がると青玉色の長髪を掻き上げながら、


「何処まで飛んで行ったもんかねー」


兄弟の肩を軽く叩きながら円卓の外へと出て行った。


「……馬鹿が」


誰も居なくなった円卓で一人パルキアは呟く。
擦れ違い様小さく聞こえた短い謝罪。それは本を投げた事よりも、別の事に対してのものであると判っていた。
兄弟の中で消化しきれていない色んな感情が重ね合わさった言葉は、混ざり合って濁った絵の具のように不透明で、本当に伝えたかったであろう事を隠してしまっている。


「危ないだろう。当たったらどうするつもりだったんだ…」


その思いに気が付いていない訳では無い。しかしパルキアはそれに触れるつもりはなかった。
未だ帰って来ないディアルガの消えた、灰色の空間をじっと見つめながらパルキアはふと優しい苦笑を浮かべた。



(知らない過去に貴女がいる事を俺もあいつも願って已まない)


Fin.




>世のものは初めは0で、1から始まり、2で動き出す、と言う事を聞いた事があります。
その話は他人がいて、そこで初めて自分が何者であるかを考える〜と言う話なのですが。

双子は自らを何者かと考える内にぶち当たった疑問が今回の母親の件です。
実際にパパさんから全てが始まっているので母親はいなくて寧ろ当たり前なのですが…。
この小話は何だか書いている自分も上手く考えを文字に出来ませんでした;;色々複雑すぎた。

取り敢えず。たまにはおちゃらけてないディアも、どうでしょうか?


100709

title:箱庭様



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