「ああ、主はん。ええところにいた」
「!?」
ズザザザザザザザッ
「…何ですのん、その反応。傷付きますわぁ」
「いや、アンタがわざわざ来るなんて何事かと」
「はぁ、とりあえず入らせてもらいますわ」
邪魔しますわー。本人そっちのけで私室の襖に手を掛け遠慮なくズカズカと踏み入る明石。
…………。
あの明石が寝そべる事無くきちんと畳に座してるこの状況が最早天平地位の前触れではなかろうか。本体である刀を横に鎮座させ、むしろこっちの方が緊張する。これから何を言われるんだ…。
「何で主はんの方が強張ってるんです?」
「アンタが私の部屋にいるからだよ!天井が降ってきそうで怖い」
「(無視)修行、行かせてほしいんですわ」
「…」
「…」
「…は?」
「主はん―――仮にも女性がその顔はあきまへん」
ブンッ!!!
思わず座っていた座布団を引っ掴んで目の前の男に投げた。まぁ、あっさりと交わされたけども。
「明石が壊れた…っ!」
こちらの動揺などお構いなしなのかはたまた興味がないのか。めんどくさそうに胡坐を掻き直し、ついでに頭を掻いた。
「そんで行かせてくれますのん?行かせてくれませんのん?」
「ほ、本気?」
「本気も何も自分はいつも正直に物言うとりますやろ」
それが大問題なんだよ。アンタの口から出る言葉は九割九分がやる気ゼロなんでーとかじゃないか。
「わ、かった。じゃあ―――はい、これ」
と言いつつ用意していた修行道具を明石に差し出す。これを渡す日が来るなんて一割未満とか思ってたのに。まさかの展開に変な汗が止まらない。
「何や、用意してくれとりますやん」
「絶対に近い自信で渡すとは思わなかったけどね」
「でっしゃろなあ」
おい、本人。
「ほな、行ってきますわ」
手渡した修行道具片手にそして傍らに置いていた本体をもう片手に持ち明石は立ち上がった。
「明石」
「…何です?」
「手紙くらいはちゃんと書きなさいよ」
「――――しゃーないですなぁ」
いってらっしゃい明石。