「ゆりか先輩、」

「なによ、コロ」



金曜の放課後、体育館、の倉庫、にて。
薄暗い倉庫の中はもわあとホコリと汗のにおいが充満していた。
目の前には、通称コロが。
背中には、冷たい鉄製ドアの感触が。
唇には、



「はなせばか」



コロのくちびるの感触が。







コロとの出会いはちょうど1ヶ月前。
昼休み、購買の最後のやきそばパンをコロにとられて、初対面で一つ下の後輩なのにも関わらずめちゃくちゃにキレて、そしたら手を付けてないコロッケパン渡してきたから許してやった。
それから私が勝手にコロと呼んでいる。

偶然ちょくちょく顔を合わせていたからよく話をするようになり、バスケの部活仲間になってからはさらに仲のいい先輩後輩になった。

それなのに、なんだこの状況。





「コロ、はなせって…」

「嫌です」



言いおわるまえに遮られた。人の話は最後まできけよ、と蹴りを入れる。
もう一度もがいてみたけれど、腕はきっちりドアに押さえ付けられて身動きが取れない。
しょうがないのであきれ顔でコロを見やった。
するとコロは一瞬傷ついたような顔をして、犬みたいにしょんぼりした。
ちょっとかわいい。



「なに?」

「すいません、こんなことして」

「いーえ。お気になさらず」

「余裕ですね…」

「慌てふためいたってどうしようもないだろ?」



へらへら笑うと、また悲しそうな顔になる。表情筋が疲れそうだなぁとか考えていたらコロの手の力が強くなったのがわかった。



「こゆこと…慣れて、るんですか?」

「うんにゃ。ファーストキスですよ」



コロの顔が真っ赤になる。
さらに緩む。
するとふとまた悲しそうになった。
目が心なしか潤んでいる。



「俺、ばかですね」

「なにが?」

「先輩押さえ付けて、キスして、変質者みたいだ」

「違いないね」

「はは、ひどいや」



さみそうにわらいながら伏せられた目は長いまつ毛に縁取られている。
コロは手を離して私の頭を撫でた。
コロの顔が優しくて大人っぽくて、びっくりする。
ためいきをひとつ吐いてから、コロは続けた。



「こんなことして、最低ですね。好きな人に…」



今度は私が、コロが言いおわるまえに、彼の唇を自らの唇で塞いで遮った。
離すと、間の抜けた顔をしてて思わず笑ってしまった。



「え?せ、先輩、」



みるみるうちに真っ赤になっていくコロ。
かわいいな、と思い頭を撫でてやる。



「せんぱ…」

「ゆでた金魚みたいだよ、顔」



金魚ゆでたことないけど、にまにましながらそういうと、コロは金魚みたいに口をぱくぱくさせた。
コロから離れてくるんと振り返る。コロがまだ間抜けな顔をしているから思わず笑ってしまった。
するとコロもつられて笑った。
口元がもごもご動いたけど聞き取れなかった。
聞き返すとなんでもないですよ、とまた笑うコロ。
よくわかんないけどなんだか幸せだからよしとした。
















(告白なんか)
(させてあげない)





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