起きたらわたしの愛用の時計がいつのまにかとまっていた。それに気付いたのは今だけれど、もうずっと鳴っていなかった気がする。ずいぶん前に止まっていたようだ。ぱか、と携帯を開くとこちらも電池が切れていた。
カーテンの隙間から白い光が差し込んでいるのできっと朝なのだろう。

照明をずいぶん長いこと点けていない、この薄暗いワンルーム。もっとも、わたしの生活範囲内は小さなこのベッドのみで、照明なんて点けても意味がない。

一日中ベッドの中でまどろんで、ときどきトイレに行ったりご飯を食べたりするけれどほとんどしないから、ずうっと寝ている。とにかく眠気が引かなくて、頭を起こそうとすればするほど靄がかかっていくように眠気に襲われる。気がつくと寝ていて、何をしてたかがわからなくって、過去のことを思い出そうとするとまた眠くなって、いつか全部わからなくなってしまうんじゃないかって不安で。
目を背けるためにまた眠る。

そういう生活になってからもうどのくらい経ったかすらわからなくなった。
何も考えたくない。考えようとすると眠くなるから考えられないけど。でも、わたしは何も考えたくないから、きっとこの生活がいいんだと思う。


ベッドから降りて冷蔵庫を漁る。なかにゼリーが入っていた。

ピンポーン

呼び鈴が鳴る。来る人は1人しかいない、彼氏だ。
ドアを開けるといつもの控えめな笑顔が現れた。


「おはよう」
「おはよう」
「朝起きてるなんて珍しいね、ご飯は?」
「今から、ゼリー」


答えると、そっか、と頭をぽんとなでてくれた。わたしはゼリーをベッドに持っていき、もくもくと食べた。人工的な桃味はなんだか本物よりみずみずしい味がした。
食べおわると彼と一緒に横になった。


「寒くない?」
「大丈夫」
「調子はどう?」
「なんにも変わらない。眠たいよ」
「今は?」
「・・・眠くない」


満足そうに笑う彼。わたしは彼といるときだけ眠たくならない。理由はわからないけれど、彼以外の他人と会いたくならないのと関係しているのかも知れない。
彼は何日かに一度、この部屋に来る。ご飯や薬を持ってきてくれて、一晩したら帰る。ここで暮らしてからずっとそうだ。


いつまでこうしてるのだろう。


わたしは軽はずみにそう思って、すぐ不安になった。
未来のことなんか知らない。将来のことなんか、考えない。
眠りすぎて現つと夢がまざったわたしの世界。
時計のように針が動かないわたしの世界。
時計はきっとわたしと一緒にとまったのだろう。
この世界が、覚めてしまわないように。



涙が出そうになって、同時に眠気が襲ってくる。わたしは、意識があるうちに彼にぎゅっとしがみつく。
そうすると彼はやさしく抱き返してくれるから。
また泣きそうになる。
それでもやってくる睡魔には抗うことなんて出来なくて。
わたしは意識を手放した。





















***
夢見る夢子。



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