くるしい、

彼女はそう言うとぱっと自分の首から手を離した。
彼女の細い首にはくっきりと両手の平の跡が付着していて、まるで赤い首輪をしているみたいだった。彼女の手は僕のそれより一回りも二回りも小さく、華奢だ。僕はその手を取って細い手首をぎゅう、と握った。

ふしぎね、

ふふふと彼女は小さく笑った。つられて僕もふふふと笑った。僕の胸の前でぐ、ぱ、と指を開いたり握ったりしている彼女はなんだか楽しそうで、小さな女の子みたいにくるくると笑った。
ぐ、ぱ、を繰り返すその小さな手はだんだん血の気が引いて、元の色よりも随分と白く、小さくなったようだ。
それをみて彼女はまたふふふ、と笑った。
色素なんか元からないとすら思える程蒼白になったそれは、だんだん壊れかけの機械みたいにぎぎぎ、と鈍い動きになっていく。
それでも彼女はぐ、は、を繰り返す。
まるで古い機械のように。
まるで呪いのように。



夕陽の差し込む窓から音楽が流れてくる。町役場が流す5時を知らせる放送だ。古ぼけたスピーカーが町のあちこちに点在して、そこからまるで失敗したカエルの合唱みたいに不規則な輪唱が5分程続く。見事な不協和音に僕は身を委ねる。
ああ、このまま時が止まればいいのに。



そんな願いも束の間で、彼女が僕の手に口付けた。おわりの合図だ。
僕は彼女の手首から自分の手の平を離す。彼女の白く細い手首に、くっきりと僕の両手の平の跡が、付着する。




しあわせね、

彼女の声が甘く、僕の耳に絡み付く。人工的なシロップみたいな、とろりと粘度の高い声が僕を、犯す。

そうだね、

僕も真似して同じように、とろりとした声で応える。すると彼女は頬を赤らめて瞳を濡らして、僕を見つめる。
僕は彼女のつやつやした頬に指を滑らせ、輪郭をなぞり、花びらのような唇を頬張る。
そのまま身体中に舌を這わせ、貪るように跡を、付けていく。


愛してるよ、愛してるよ、愛してる、よ、

彼女のものか僕のものか分からない、ただただ今までで一番甘くどろどろの声が、上がる。
甘くて、なのにいつの間にか苦いそれが、上がる。
部屋中に充満して、充満して、息をしたって甘くて。
同時に彼女はびくり、と身体を震わせる。
少し遅れて僕もびくり、と身体を震わせた。















(あまったるいだけ、の関係、)








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