彼は馬鹿にしたように、へらり、と、笑う。
恐ろしいくらい美しい容貌を、酷く歪ませて、笑う。
「自分でもつい最近気付いたのさ」
彼の握ったナイフが、古ぼけた小さなナイフが、彼の滑らかな白い手に食い込む。食い込んだそこからは真っ赤な血がてらりと零れた。
「気付いたら僕は、取り分け人より嘘が上手になっていたんだ」
彼の真っ白でふわりと丸い頬には幾本もの皺が刻まれ、大きな瞳は歪に開かれた。
口許がわなわなと震え、彼はそれを抑えるように唇を噛み締めた。其処からはまた赤く煌めくそれが滲み、彼の赤い唇をさらに赤く濡らす。
「・・・、」
力んだ唇は再び緩み、そこから溜め息が流れ出る。
そしてまた軽快な口調でこう云った。
「悪い事なんだろうか、それは。誰にでも有る個性だ。特徴で特長なんだ。人より嘘が上手なだけなんだ。嘘を吐くことが僕に合っていただけなんだ。人より自分を傷付ける事に躊躇しなかっただけなんだ。自分の痛みが、傷みが、僕の慰めだったんだ。悪い事なのか、なぁ。・・・教えて、くれよ。」
彼は、余裕すら伺えた云い始めとはうって変わり、懇願するかのような口調で告げきった。
彼の感情が剥き出しに成る程彼の美しい赤は、美しい腕を伝って、彼の足許を染めていく。
悪い事さ。
君は間違っている。
・・・そんな事は、云えなかった。
彼の訴えるそれは、自分の中にも有る狂気にそっくりだった。
自分だけ正常な振りなんて、目を反らすことなんて、もう出来なかった。
彼は私だった。
私は、彼だった。
私は彼を抱き締めた。
何か云える筈もなく、只只彼を抱き締めた。
間もなく、からん、とナイフが床を叩く音がした。
「・・・・・う」
彼の艶やかな丸い頬に、透き通った心が伝う。
空気が震え、澄んでいく。
小さな肩が小さく上下し、赤く染まった手のひらが私の服を掴んだ。
「・・・・、うわぁぁぁぁ」
泣き声と共に彼は、消えた。
砂のように光って、濡れた風になって。
かなしいとか、せつないとか、愛しいとか、執着とか、安心とか、焦燥とか、色々な気持ちが相まって、僕は、泣いた。
葬ったはずの自分が
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