線のその向こう側
朝練後
▼ ▲ ▼
翌日、朝、部室での会話。
「ちょっと英太くん。きのう若利くんに変なこと教えたデショ。」
「え?」
「ホラ!その顔っ何のこと?って顔したって無駄だからね。」
レギュラーメンバーが勢揃いする部室で天童が牛島の肩を掴むなり皆の注目を集めた。
「ちょっと見てよコレ!はい、若利くん。昨日のアレやって。」
「昨日のアレとは?」
牛島はシャツを脱いだ状態で止められ上裸。
そんな姿のまま天童が「名前ちゃんは俺のコレなのか?ってヤツ!」と大きな目を更にカッと開く。
「あぁ…」
「「…。」」
メンバーの視線を一身に受けながらも、牛島は気にもとめず左手を動かした。
メンバーが息を呑む。
「苗字は天童の、コレなのか?」
「「…。」」
「ぶっ…」
左手の小指を立てた、その姿に一番に吹いたのは伝授した瀬見。
メンバーはシケたツラをして据わった目を向ける。
五色だけは首をかしげていた。
「すみませんうちの先輩が…」
「瀬見さんの言ったことは信じない方がいいですよ。」
「…どういう意味ですか?」
白布、川西、五色が順番に反応する。
「可愛くない後輩たちだ…」
「間違いない。」
瀬見と天童が着替えの続きを始めた。
「あ、でも俺はちゃんと笑ったよ?おかげでお腹痛かった。」
名前ちゃんには迷惑かけたけどねぇ〜と話す天童の言葉で思い出したように瀬見が顔を彼へ向けた。
「そうだ。昨日若利に聞いたんだけど苗字と付き合ったんだって?」
「…へ。」
天童はネクタイを首にかけたと同時に口を盾にして瀬見を見た。
瀬見は「え?だって、肯定はするって言ってたぞ。って若利が。」と指をさすがその先にもう姿はなく「アレ?」と瀬見は辺りを見渡す。
天童はネクタイを引っ張って「あ…あぁ!!」と叫んだ。
周りにいた部員たちがびくりと肩を震わせる。
大平が「なに。どうした?」と天童に問いかける。
天童はヤバい顔をして口を動かした。
「ちゃんと言わないと…!」
「?まだ付き合ってなかったのか?」
「英太くんありがとう!」
「え?お、おう?」
バタバタと荷物を抱えて慌てて部室を出て行った天童。
ネクタイを握りしめスポーツバッグが彼の腰辺りでぴょんぴょん跳ねている。
登校中の集団の間を縫って走って向かう先は教室にいる彼女の元。
階段を駆け上がる天童とすれ違ったクラス担当の教師に『コラッ天童!ネクタイをしろっそして走るな!』と怒られる。
天童は「はぁい」と返事をするだけ階段を上がり切ったところで先生にピースをした。
先生が叫んだ。
『鷲匠先生に言うからな!』
さっさと教室に向かおうと数歩歩み出していた足を天童は止め、戻ると階段下を見て不敵に笑う。
「先生大人気ねぇ〜」
担任の顔は一気に怒りに満ちた。
『なんだとー?!』
「ぶひゃひゃひゃっ」
わざとらしく笑いながら教室の前まで行くと、ちょうど教室から出てきた本人の姿を見て目を見開いた。
「え?名前ちゃん?」
「あ…てんど…」
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