線のその向こう側
理由
▼ ▲ ▼
「…え?」
聞きなおした名前。
『付き合おっか、俺たち。』
天童がはっきりとして口調で、もう一度言った。
名前は口をポカーンと開けたまま固まる。
『なんで、突然…って思ってるデショ。』
「…びっくりして…」
『ダヨネェ〜でもさ、そんなに突然でもないんだよ?俺の中では。』
『この前はさ、またすぐ別れちゃうかもって怖かったんだけど…』といつもの天童口調で饒舌に話しを始める。
『今日、お昼休みに食堂で女の子に声かけられたんだよね。』
「!?」
名前は目を見開く。
女の子に、声かけられた?!
“バレー部の天童覚”が恐ろしいことほかない。
『そのときにさ〜“名前ちゃんと付き合ってんのか”って聞かれたんだよ。初めて確信に迫って来た子でちょっとビックリした。』
『今まで聞いてきた子、いなかったんダヨ?』と話す天童。
名前はそうなんだ、と内心思いながらも黙って天童の話に耳を傾ける。
『その時にね、俺正直言っちゃったんだよ。“付き合ってないよ”って。でも、一緒にいた獅音くんがさ〜』
天童がお昼休みのことを思い出す。
問いかけてきた女子が去っていく背を見つめていたところに大平が言った。
“じゃあ手、出したらダメでしょーよ。”
『俺、納得したよね!!それに!』
「…え?」
『だって名前ちゃんが俺のカノジョじゃないってことは名前ちゃんが他の奴とチューしていいってことになっちゃうじゃん?!』
「…は。」
まぁ、そうだね。と思う名前だが、思わぬ考え方をして決意をしたんだということがわかり少し胸が温かくなった。
というより、天童が常識を持った人で良かったと正直どこかで思った名前。
『…まさか、俺もアソビだったりする?』
「…天童しかいません。」
『ダヨネ〜知ってる。』
「…。」
コイツ…と眉間に皺を寄せる名前。
『あ!!そうだ!名前ちゃんの用件は何だったの?』
「あぁ…」
付き合う話はどこへ行ったのか、コロッと話を変えてしまった天童。
名前は深入りせず早く用件を話してしまおうと思った。
「実はきょう家誰もいなくて、天童呼ぼうかと思ったんだけど…」
『え?!マジで?!きょうだけ?』
「うん。明日はいるみたいだから…」
『えぇ〜それは名前ちゃん先言わなきゃいけない重要な事ダヨ〜。』
天童の声のトーンから気を落としているのがわかる。
ショックを受けている様子だ。
「外泊ってできるの?」
『できるよ?いや、できなくても抜け出す…!!』
「できるんだよね?」
『外泊届出せばだいじょーぶ。』
「…じゃあ、次はちゃんと言うね。」
『…。』
天童はベッドの上から降りて『マジで?!』と言うなり「ヤッター!」と両手を上げた。
『じゃあそんときはちゃんと覚悟しとくんダヨ?』
「…天童が寝るのを?」
『…。』
天童は目を瞑って黙り込んだ。
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