線のその向こう側
表情と言動
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電話の向こうで盛大に笑う天童の声が耳に響く。
『若利くん〜相手は名前ちゃんだよ。』と飄々と答えた。
名前は「牛島くん、ごめん。天童が…」と母親のような気持ちになって謝罪の言葉を述べた。
『苗字がなぜ謝る?』
『俺に代わって謝ってくれたんだよ〜たぶん。』
『ということで幽霊じゃなく、名前ちゃんと喋ってた!』としっかり牛島に訂正する天童。
牛島は『そうか。』と言うと『天童と苗字は、コレなのか?』と電話越しではわからない会話を繰り広げる。
天童はそれを見て再び吹いた。
「ちょ…そんなの誰に教えてもらったの?!俺そんなこと教えてないヨ?!」
「瀬見だ。」
「英太くんかっ!!」
ぶひゃひゃと腹を抱えて笑う天童を見て牛島は首を傾げる。
「で、どうなんだ?実際。」
「実際って…まぁ、否定はしないネ。」
笑い過ぎて目尻に溜まった涙を拭う天童。
「肯定はするのか。」
「肯定…う〜ん…ぶっくく…」
真面目な牛島が言うから、面白い。
天童は表情と言動の合わない面白さに笑い続ける。
「肯定はするヨ。」
その言葉だけ、クリアに聞こえた名前は「何?何の話?」と一人呟く。
牛島は「わかった。瀬見に言っておく。」と告げ、天童の部屋を後にした。
『ハァ…若利くん面白い…。』
「楽しいそうだねぇ〜」
何分、二人の会話を聞いていたのだろうか。
名前は落ち着いた天童に少し拗ねてみた。
『アレ?アレレ〜?拗ねちゃったのかな?名前ちゃんは〜?』
「だってせっかく電話くれたのに牛島くんと喋って…」
『素直だね。可愛いね〜』
目を瞑って花を飛ばす天童。
名前は可愛いと言われて黙り込む。
『ねぇ、名前ちゃん。』
「ん?」
数秒の沈黙の後、天童が真剣な声のトーンで彼女に言った。
『付き合おっか。』
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