線のその向こう側
電話の向こう
▼ ▲ ▼
『お?若利くん!どしたの?』
電話の向こう側で天童が誰かに声をかけたのがわかる。
若利くん、それは牛島だ。
『天童、コレ読んだぞ。』
『あ!読み終えた?どうだった〜?』
「…。」
名前はげんなりした。
これはしばらく二人の会話を聞いておかなければいけない状況になってしまった、と。
電話の向こうでは、天童が牛島の手から漫画を受け取っていた。
「美肌ページは参考になった。」
「エ?ソレ広告ダヨネ。漫画はー?何が一番おもしろかった?」
「…よくわからないものばかりだった。それより、いいのか?誰かと話してただろう?部屋には誰もいないようだが…」
そう言って天童の部屋を見渡す牛島に、天童はぷっと笑う。
「そう今ね、幽霊と話してたんだけど〜」
それを聞いている幽霊に例えられている名前は「誰が幽霊だ。」と心の中でツッコんでいた。
「天童は、幽霊が見えるのか。」
真面目な顔をして眉を少し動かした牛島。
天童は「若利くん。幽霊を信じるかい?」と問いかける。
「天童が話していたからな。信じれる。」
「…どんな基準なの。」
目をキリッとさせて答える牛島に天童が「はい。」と携帯を渡す。
牛島はそれを受け取るなり「なんだ?」と天童を見た。
「幽霊と話せるんだよ。ソレで。」
「ほう。」
そう言うと耳にそれを当てた牛島。
天童は「名前ちゃん、ごめん。」と謝るも、内心どこかで楽しんでいた。
「もしもし。」
「ぶっ…」
携帯だけあって、反射的にだろうか、もしもし、と相手に電話をするような言葉を発した牛島に笑う天童。
受話器の向こう側、幽霊役を仰せつかった名前が「え?牛島くん?」と気の抜けた返事をする。
牛島はピクリと眉を動かし天童を見るなり
「幽霊は女だったのか。」
と言った瞬間、天童は「もう無理!」と腹を抱えて笑った。
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