線のその向こう側
線
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名前は家に帰るなり、誰もいない家で夕食もお風呂も済ませた後、自室に籠った。
ベッドにゴロッと寝転んで、天井を見上げる。
「…彼女…か。」
彼女になったら、何かが変わるかな。
とりあえず、天童のこともう少し心の奥底まで入り込めるかもしれないな…少なくとも今よりは知れるだろうな。
あとは…デートしたり…?
でも、天童、バレー部だし…推薦でレギュラーメンバーだし、それは無理。
手を繋いだり、キスしたり、それ以上は…今でも…
そう考えていて、我に返る。
「…すでに、恋人がすること、しかけてる?」
ため息が零れた。
『しっかり線引いておかないと、いざ恋人になるとき「なんでなったの?」って状況になりかねないよ。』
花に、言われた言葉だ。
その意味が今わかる。
「…じゃあ、キスするときに、私たち、どんな関係なの?って、聞くの?」
眉間に自然と皺が寄っているのが、わかる。
ごろごろと、考えている時。
どこかから聞き覚えのある音楽が流れる。
「…電話。電話だ。」
ハッとしてベッドから降りると、ブレザーのポケットに入れたままの携帯を取り出す。
「…?誰だろ。」
知らない番号。
非通知ではない。
画面をタッチすると耳に当てた。
『あー名前ちゃーん?だーれだ?』
いつも耳にする声とは少し違うけれど、口調とテンションは正しく彼。
「天童?」
『ピンポーン!だーいせいかーい!覚くんダヨ〜』
名前の脳内にはピースをしている天童が思い浮かぶ。
『花ちゃんに電話番号教えてもらった。』
「あ、うん。」
今、聞こうとした質問の答えを先に天童は伝える。
名前はこれがゲス…?と何とも言えない顔をする。
『今日あんま喋れなかったなぁと思って名前ちゃんのこと考えてたら、名前ちゃんさ、俺に言いたいことあるって言ってたっしょ?アレ、何だったのかな〜って。電話した。』
お昼休み、伝えそびれた用件を名前は忘れていたわけではなく、言えなかったといった方が近かった。
それを、彼はすっかり忘れてくれていると思っていたのだが、覚えていたらしい。
現にこうして電話までもかけてくれている。
言わなければ、いけないなと口を開いた。
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