線のその向こう側
彼女の話
▼ ▲ ▼
「よかったのか?彼女。」
共に食堂へ向かっている天童に問いかける大平。
天童は目だけ大平に向けると「名前ちゃん?」と首を傾げた。
「そう。って…彼女じゃないのか?」
大平は言い換えた天童を変に思い苦笑いをした。
しかし、天童の返答に真顔になる。
「違うよん。」
「…え?」
「え?」
真顔になった大平に真顔で返す天童。
二人は顔を見合わせた状態で立ち止まった。
「まだ付き合ってないのか?一夜も過ごしておいて。」
「獅音くん。その言い方誤解生むから、やめてネ?」
人が行き交うお昼休みに入ったばかり。
周りには生徒で溢れている。
天童は低い声のトーンで真面目な顔をして大平を見ると、鼻歌を歌いながら階段を下りていく。
その様子を見た大平が「あ、そういえば天童らしからぬ結果で終わったんだったな。」と思い出す。
「どこが好きなのよ?」
「ん〜?」
いつも付き合っていた女子たちとは明らかに違う扱いをしている天童。
彼の今までの行いを見ている部員には、興味のあるその相手。
あのチャラい天童を本気にさせた、とレギュラーメンバーは言っていた。
「部室でイチャイチャしているところに遭遇しなくなりましたよね。」
「話題が名前さんのことばかりですよね!」
「本気になると欲求不満も耐えられるんすね。」
…言い方は違えど、みんな天童に興味津々だぞ。
天童は「そうだねぇ〜」といつもテキトーなことを言う前の顔をしている。
それを見た大平が、「あ、コレは真面目に返さないやつだ。」と思った。
「俺をバレー部の天童覚として好きになったんじゃないってとこがポイント高いんダヨネェ〜」
「…。」
大平は少々驚いた。
本気で好きなところを、口にした天童に。
「もう、それだけで幸せにしてくれそう。」とにやにやする天童を見てふっと笑う大平。
「もう十分幸せそうだぞ。」
「ホント?それは名前ちゃんのお陰かな〜」
上機嫌な天童が食堂へ入るなり、女子数人に声をかけられた。
このモテはバレーだけ…ねぇ。
本当なのか?と思う大平。
「あの、苗字さんとは付き合ってるんですか?」
「…え?」
大平も思わず立ち止まる。
天童は目を見開いた。
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