線のその向こう側
遠慮
▼ ▲ ▼
「天童。」
お昼休み、天童はいつも通り食堂へ向かおうとしていた。
教室を出たところで名前が声をかける。
「あ?どうしたのー?」
「あの…その…」
言葉に詰まっている名前を見て、天童が「あ。」と思い出したように彼女を見た。
「そうだ。今週からインハイなんだけど、名前ちゃん応援来てくれるよね?」
天童の勢いに「うん。」と頷く。
「あの、天童…」と顔を上げれば彼は「あ!獅音くん!待って俺も行く!」と両手を広げて存在を主張している。
階段を降りようとしている大平の姿があった。
それを見れば足止めをしている場合ではない、と苦笑いをする名前。
「いいよ。後で言う。」
「…名前ちゃんさ。」
「ん?」
様子のおかしい彼女を見た天童が、「遠慮なんてしなくていいんだよ。なんでも言っていいんだよ。俺みたいに。」とケラケラ笑う。
彼なりの、助けだった。
名前は、ふっと笑うと「…天童はもう少し遠慮を覚えた方がいいと思う。」と言う。
目をぱちくりさせる天童は「エ。言っちゃう?ソレ。」と肩の力を抜いた。
「天童ー」
「待って!今行く!」
そう言うとさっさと大平に駆け寄っていった天童。
名前はそっとため息をつく。
「名前さ。天童に何をそんなに遠慮してんのさ。」
「…。」
背後から花に声をかけられ口を詰むんだ。
「アイツは名前にどんどん中入ってきてるのにさ〜名前は、そこんとこどうなの?」
「…天童の中、か。」
確かに、好きってことは確かだけど…
質問されたら、それに答えられるかどうか不安なところ。
「やっぱり、恋人じゃないと踏み込めないところがあるというか…」
「…はぁ…そうだねぇ…アイツその辺考えてんのかな…」
花は名前の言葉に納得しつつ教室に入っていく。
その背を追うように名前も教室に入った。
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