線のその向こう側
記憶
▼ ▲ ▼
一方、名前は一度家に帰り、誰もいないリビングにあるテーブルの上を見ていた。
「きょうもいないのか…」
両親揃って今日もいない。
そうなると、家に帰っても一人だということがわかり、少し寂しくなる。
その瞬間、ふと浮かぶのは天童の顔だ。
「名前ちゃん!」と呼ぶ声と共に、昨夜の彼をも思い出す。
「…覚、か。」
口にしただけで顔に熱が帯びるのに、本人の前でなんてどうしたものか、と考える。
…どこまで覚えてるんだろう、天童は…。
ぐったりと寝てしまった彼を思い出して苦笑いする。
きょう朝会ったにもかかわらず、すでに会いたい気持ちが記憶を蘇らせた。
すぐ着替えと準備を済ませた名前は学校へ向かった。
着けばまだ朝練をしている時刻だった。
ちょこっと覗いてみようと考えた名前は体育館の2階にあるギャラリーに向かう。
朝早く誰もいないそこにコソコソと身を小さくしながら中の様子を見た。
ミニゲームをしているそこでは、前見た時と違う様子が伺えた。
今日は大学生と練習してないのか…部員で練習してるみたい。
両コートの面々を見て確かめたところ、レギュラーメンバーが半々に分かれた状態で行われているのがわかった。
スパイカー3人が入ってくるのを見て嫌な顔をする名前。
天童側のチームの気持ちになると嫌でしかないその光景。
私がセッター(瀬見)だったら…誰に上げるだろう。
天童が真ん中にいて、白布と大平がいる状況。
セッター側(白布)に上げるかな…。
そう予想してみたものの、天童が真逆の方向に動くのを目にして「え、そっち?」と目を見開いた。
彼の予想通りトスは大平の方へ上がる。
瞬間、五色が打ったスパイクは見事に叩き落された。
思考が一瞬止まった。
え、今…天童…。
見事にブロックした天童がコート内で「英太くんバレバレ〜工も、ブロック嫌だよね〜わかるよ〜しかし!強行突破しようったってそうはいかないもんねぇ〜」と話しているのが聞こえる。
完全に読んでたよね…。
自分がセッターだったら白布側に上げてただろう。
おそらくそっちにブロックだってする気で身構えていたはずだ。
なのに…真逆って。
あのセッター(瀬見)もだけど天童もよくそっちだとわかったよね…。
ゲス・モンスターと呼ばれる彼がこの瞬間納得できたような気がした。
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