線のその向こう側
いつもと違う朝
▼ ▲ ▼
「…。」
「「…。」」
朝、寮の食堂。
バレー部の面々が集まるそこに天童はいた。
しっかり髪を立てて制服も来て、ただ…目を瞑ってもくもくと食事を食べている姿だけは異様だった。
周りでその様子を見ていた大平が隣の瀬見に声をかける。
「…天童は何かあったのか?」
「あー、彼女。あ、違う。苗字。」
「あぁ。そいや来てたんだっけ。」
こそこそと話す二人なんて気にもせず天童は難しい顔をしていた。
どうしよう…俺、本当にキスした後から記憶がない!
やばいやばい、と焦っている天童だが表面上そういう風には見えないため、周りは不思議そうに彼の様子を伺っている。
そのくせもぐもぐと口に食事を運ぶのを見て、白布が呟いた。
「…天童さん。考えながら食べると消化に悪いですよ。」
瞬間、天童はパチッと目を開き。
聞いていた部員たちは思う。
白布は、いつでも真面目だなぁ…。
しかし、その時から天童の様子はいつもの形に戻った。
「なんで考えながら食べてるってわかったの?!賢二郎エスパー?!」
「…いつも―…」
「うるさくない!」
「…天童さんの方がよっぽどエスパーだと思いますけど…」
「やっぱり!わかるよそれくらいっ」と叫ぶ天童を見ながら周りの部員たちもやっと心落ち着かせた。
一度部屋へ戻り、荷物を取りに行った天童。
ベッドの上でまだスヤスヤ眠っている彼女をそっと起こした。
「名前ちゃーん、朝ダヨ〜起きてよ〜俺行くよ〜?」
その声にパチッと目を開けた名前がガバリと勢いよく起き上がり目の前の彼の姿を見た。
「え…あ。びっくりした…」
「ビックリしたのは俺だから…」
勢いよく起き上がった彼女から身を離すように一歩引き下がった天童が力なく腰を曲げた。
「あ、そっか。朝練あるんだっけ…」
「あと10分もしないうちに出るけど…名前ちゃんも一緒に出る?」
「そうだね。一回家帰らないと…」
そう言うとベッドから降りた彼女。
じーっとその姿を見つめる天童だったが、名前が「着替えるからちょっとの間外いてくれるかな?」と張り付けた笑顔を向けた。
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