線のその向こう側
朝
▼ ▲ ▼
朝、5時半。
携帯のアラームが鳴り響く瞬間を待ってましたと言わんばかりに止める手。
力なく携帯の上に乗っかるそれがピクリと動いた時、目を薄っすら開いた天童。
いつも通りの朝。
今から用意をしてごはんを食べて朝練へ向かう。
しかし、いつもと違うものがあった。
左手が何かを抱えている。
抱き枕なんてなかったよね…俺の部屋。
誰かの部屋にあったな…なんてくだらないことを考えるのはまだ脳がしっかり目を覚ましていない証拠だ。
身体の向きを変えるなり、腕を動かした瞬間だった。
「ん…」
「…。」
寝返りをうつ目の前にいる、女の子に目をぱちっとさせた。
「え…」
待って、誰?
起こさないように、その場から少し距離を開けた天童は身を起こすなり考える。
視界が鮮明になってきた頃、脳も覚醒し始める。
「あ、名前ちゃんだ。」
傍にいる人の顔と、昨日部屋へ連れ込んだことを思い出し安堵した。
欲求不満すぎて知らない子連れ込んじゃったかと思ったじゃん…。
なんて口にすれば花なら怒鳴るであろうことを考え、すやすや眠っている彼女をじーっと見つめる。
寝顔も可愛い…まぁ名前ちゃんはなにしてても可愛いんだけどネ。
なんて目を瞑りながら昨夜の彼女を思い出していると、ふと思い出せなくなる。
「…アレ?」
確か、話しようって言って…俺、名前ちゃんにその話したっけ?
隣に来た名前ちゃんが可愛くて…手出した、よね?俺。
お風呂上がりで、いい匂いしてたから…つい。
なんて思い出しながらにやにやする天童。
その顔を見ている人がいた。
「おい、天童。」
「!!」
いつから見てたの?と叫びたくなるような衝撃。
部屋のドアから顔を覗かせて口角を上げる瀬見の姿だった。
「にやにやしてんなよ。」
「英太くんっいつからいたの?!」
「さっきだよ。」
「ニヤニヤしはじめた時を見たぞ。」とだけ言うと逃げるかのようにバタンとドアを閉めて行った瀬見。
「…。」
固まる天童。
そっと、視線を眠る彼女に移して目をパチッとさせると身を寄せた。
ギシッとベッドが軋む。
「…。」
にやりと口角を上げれば、天童は携帯を片手にした。
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