夜空に星が瞬く-prologe-
続かない理由
▼ ▲ ▼
そんな天童の噂を聞いた少し後、私は半年付き合っていた彼氏と別れた。
原因は、“ドキドキしなくなった”からだ。
片想いは楽しい。
目が合っただけで、ドキっとしたり…
姿を見れただけで、喜んだり。
そんな姿を手に入れてしまえば、その時は舞い上がる。
好きで好きで仕方ない。
ずっと一緒にいたい。
でも、そんなこと永遠に続くわけがなくて…
結局、長く付き合ったならドキドキはなくなってしまうもの。
3年になった直後、まさかの事件が起こった。
「あれ?名前ちゃんじゃん。なんか話すの久しぶりだね。」
「天童だ。」
「みんなのアイドル天童くんダヨ。」
いつも教室で見る時と何も変わらない彼の顔。
クスクスと笑う私に彼が「ところで名前ちゃんさー」と口を開いた瞬間に、空気感が変わった。
視線を上げれば、いつもの天童。
何、今の一瞬…と恐れを感じた。
「彼氏と別れたんだってね。」
「うん。もう結構前の話だね。」
「エ、そうなの?俺昨日知ったんだよ?」
先ほどの、空気感は本当に一瞬のことだった。
いつもと何ら変わりなく話す天童の様子にホッと安心した。
「どこで?」
「廊下で。」
「廊下?」
「うん。そう。廊下。」
「…へ、へぇ。」
どういうことだろうか、と疑問を浮かばせた自分。
しかし、目の前の彼はそれ以上言ってくれようとしていない。
…その先が知りたいんだけど…聞いたら、教えてくれるのだろうか。
「誰から…聞いたの?」
「…へぇ、素直に聞くんだねぇー意外だったなぁ〜。」
…試された?
そう、悟った。
ニヤニヤしている天童。
…なんで、そんなこと私にする必要があったんだろう?
何の得に、なるというのだろう?
彼の行動に、必死に悩ませた。
考えても、答えが出るものではないと後で考えてみればわかったことを…彼はその場では…わからせてくれない。
「噂、ダヨ?」
近づく彼を見上げる。
「噂といえば、天童も女の子、とっかえひっかえしてるらしいね。」
その言葉を、彼はどう捉えたのだろうか。
今思い出せば、彼の放ったあの何か一瞬…空気を変えた感覚は、私を操るためのものだったのかもしれない。
「言い方悪っ!」
「じゃあ何か言い訳でもしてみる?」
彼の本心を、覗き込むことができるんじゃないかと思って見上げてみた視線。
手が、肩に触れる。
体が、動かなくなる。
そのまま、身は委ねる。
一瞬だった。
「カッコいいって、素直に思える人と付き合いたい。」
数人と付き合って、段々わかってくる。
自分が求めている相手像というもの。
「え、カッコいい言ってたじゃん。」
「いや、あれは表面。顔。やっぱり中身がカッコいいはいない。」
「名前は一緒にいて楽しい人がいいんでしょ?」
「それはもちろんそうだけど…ずっと付き合ってくならね?でも別れてしまうことの理由には、ずっと付き合っていても楽しくなくなるし、その人の魅力が薄れてくんだよね…」
「…名前が魅力持ちすぎだからね。男は飽きないだろーね。」
「え、そう?」
「うん。」
「見た目とは裏腹に予想外なことしてきて…感情読めなくて…振り回される恋なんて…あるかなぁ。」
そんな話を花としたっけ…なんて、今目の前の彼を見て、思い出す。
見た目とは違ってチャラくない、真面目。
素直な行動をするくせに、よくわからない。
実は、軽いやつなのかもしれない。
やっぱり人は見た目を裏切らないって言うだけあって、チャラいのかもしれない。
だから、何も読めない、この人は。
「好きでもない人にキスするの?」
「え、俺好きだよ?名前ちゃん。」
「…本心?」
「もちろん!」
「言い訳しろって言ったの名前ちゃんデショ?だから言い訳のキスしてみた。」と軽い。
本当にあの天童が私を好きになる?
…ないな。
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