関りは避けられず
自室
▼ ▲ ▼
その頃、天童はというと…
「あれ、工もうお風呂入ったの?」
玄関から寮生が集まる食事スペースに来ていた。
食事スペースを抜けると階段があり、そこから部屋へ繋がっている。
タオルで真っ黒なツヤサラ髪をごしごししながら立っていた五色に声をかけた。
彼が「はい。」とだけ言うと天童は「俺も早く入ろ〜」とつぶやいてから、気づいた。
「…名前ちゃん、どうしよかね。」
「?」
天童の呟きに首を傾げる五色。
何も考えていなかった天童は うーんうーん、と唸りながら考える。
「仕方ない、花ちゃんに連絡するか。」
携帯を取り出し慣れた手つきで画面をスライドさせると女子寮で過ごす花に電話をかける。
そのまま部屋へ行こうとすると、おばちゃんに止められた。
「覚ちゃん!ごはんできてるよ!はよ食べな!」
「あー、うん!」
おばちゃんに返事をしたと同時にコールがぶつりと切れた。
向こうから「なに。」と冷たい声が聞こえてきた。
「あ、花ちゃん?覚くんだけどさ〜」
「わかってるから用件だけ言え。」
あ、表示が出てたか。と思った後、「そんなこと言わないでよ〜」といつもの調子で言う。
携帯の向こう側にいる花は眉間に皺を寄せた。
「名前はどうしたのよ?」
「そう、ソレネ。」
花はお昼の誘いが本気だとわかっていたようで、名前はどうした居るんじゃないのか、と聞いていることがわかる。
いるにはいるんだけど、お風呂、入らせてあげて欲しいんだよね。と告げると、花はため息をついた。
「あんたそこまで考えなかったの?」
「今、工みて思い出した。」
「テキトーか。」
呼ぶなら考えてから呼んであげなよ、と説教をくらい、10分後に女子寮の前ね。と言われた天童は電話を切るなりすぐ部屋へ向かった。
名前はすでに頼んでいた瀬見によって自室にいるはずだ。
セミセミが何もしてなければの話だけどねぇ〜。
なんてふざけたことを考えながら部屋へ入ると、自室にいる彼女の姿を見て未だかつて感じたことのない感情に襲われた。
…悪いことしてるってわかってるけど…
「まさか好きな子が自分の部屋にいる時が来るなんて考えたこともなかったから…なんかドキドキすんね。」
そう言うとスポーツバッグを置いて名前の隣に座る。
「え、天童…」
そのまま彼女の頬に手を添えて、唇を奪った。
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