関りは避けられず
寮
▼ ▲ ▼
日は沈み、薄暗い時刻になっていた。
寮は明々としており、賑やかな声が聞こえる。
玄関の前に来た時、天童が振り返った。
「門番がいるから名前ちゃんはコッチね。」
「え?」
そう言って天童が指さす方を見る名前。
どう見ても道には見えないが、草木の手入れをするためか人が通れるほどの隙間があるそこ。
もう一度天童を見て、「天童は?」と聞くと、彼は「俺帰ってきたこと門番に言わなきゃなんだよねぇ。名前ちゃんが行った先にはすでに人員を確保しておいたから大丈夫ダヨ。」と言うとヒラヒラと手を振る。
少し躊躇いながらも、その細い道をしぶしぶ通った。
少し歩けば、庭のような広場に出た。
そこで足をブラブラさせて待っていたのはバレー部の瀬見だ。
「お、来たな。」
「えっと…もしかして、もしかしますか?」
名前の一言にクスッと笑う瀬見。
「よくわかんねぇけど来いよ。」と廊下を歩いて行った彼の後を追うように名前は靴を脱いで上がると後を追った。
廊下の角を曲がれば名前は目を見開いた。
ズラッと扉が並ぶ。
間違いない、寮に住む者たちの部屋だった。
「思ってたより、可愛い…」
「女子寮と同じ造りらしいからな…女子受けはいいのかもしれねぇなぁ…」
瀬見の言葉を聞けば、男子受けは良くないということがわかる。
廊下に並ぶ小窓がアーチ型にくり取られており、アンティーク調で、男子にとっては恐らくこんなところどーでもいいのだろうな、と思わせる。
階段を登ると、1階と同様、廊下にはアーチ型の小窓が並び、反対側には部屋が並ぶ。
中に人がいるのかいないのかは全くわからないが、廊下ではとても静かだった。
瀬見が立ち止まり、躊躇いなく目の前の扉を開けた。
「ここ、天童の部屋。」と言って中へ入れと促される。
名前はゆっくりそこへ歩みを進めた。
部屋の中は特にこれといったものはなく、もともと寮にある最低限のものしか置かれていなかった。
ただ…棚に並ぶマンガ雑誌を見て「マンガ読むんだ。」ということを知った程度にしか目につかなかった。
「じゃ、くれぐれも食われねぇよーにな。」
「?食われる?」
瀬見は一言吐き捨てるように出て行ったため、名前には疑問が残った。
食われるって、何のことですか。と。
「…天童まだかな…」
門から入ればそれほど遠回りになってしまうのだろうかと思うほど、彼は帰ってこない。
「あ、そうだ…連絡しておこう。って…今日夜勤だった。」
両親ともに医療人である名前は、連絡せず携帯をポケットへ入れた。
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