関りは避けられず
知らないこと
▼ ▲ ▼
放課後、お昼の食堂での一件から天童と話さず放課後を迎えた。
そのまま部活へ行った天童を一人教室で待つ。
「…ツライ。」
天童がどう思っているかなんてわからず、何を言われるのかと気になって心が持ちそうにない。
一層、ここから逃げ出して帰りたい気分だ。
…花のバレーしてるところ、見に行こうかな。
そう思うことは容易だったが、彼女の使用する体育館はギャラリーがない。
男子バレー部にはギャラリーがあるため、見学はいつでも可能だった。
…天童の練習見に行こうかな。
そう思うことも、また容易だ。
しかし、こんな憂鬱な気持ちのまま行っても、意味が無いような気さえする。
でも、見に行こうか、と考えてる時点で、自分は相当彼の事が気になっているということがわかる。
私が隠されてたら…少しの間関わりたくないかもしれないな…
あ、でも隠してた理由を知りたいかもしれない…。
…天童は、それを聞いてくれるのかな?
教室を出た名前が向かう先は決まっていた。
「名前?」
階段を降りていると、制服を着た男子とすれ違った。
背後から名前を呼ばれ、足を止めて振り返ればその人はニカッと笑った。
「やっぱり、久しぶりだな。」
「…奏生。」
サッカー部の副キャプテンをしている、相楽奏生(さがらそうせい)。
名前の、以前付き合っていた元カレだった。
「ってか、放課後残って何してんだ?バレー…し始めたわけではないんだろ?」
「うん。」
名前の制服姿を見て首を傾げる相楽。
彼は、名前がバレー部で怪我をした後、救った一人だ。
名前の考えていた、バレーとの未来からゆっくり離してくれた人。
彼女にとっては、忘れられない存在だ。
「体育館行こうと思って。」
「あ、バレー部か?」
「え…」
「なんでわかったの?って顔してるな。」と、付き合っていた頃の彼となんら変わりない笑顔を向けられる。
「噂だよ。3年じゃ知らない奴いないと思うぞ?バレー部の天童と付き合ってんだろ?」
噂になっているなんて知らなかった名前は驚いた。
天童の有名さには何かと驚かされる。
まだまだ、知らないことが多すぎる。とこういう場で思う。
「ううん。付き合ってないよ。」
「え?そうなの?結構もう有名な話だぞ?天童のファンは嘆いてたしな。」
天童のファン…。
こうやって、彼を少しずつ遠く感じて行くのだろうか…?
思えば思うほど、不安は募る。
「私が、一方的に好きなだけだよ。」
その噂くらい、回されても構わない。
でも、天童の彼女って噂は、やめて欲しい。
「天童に悪いから、彼女ではないって言って欲しい。」
制服姿の彼の背が、段々暗くなっていく。
日が落ちかけている時刻だとわかる。
「嘘ばっかり並べて、それでいいの?」
背後から、声がしたと思えば、下の階段の壁から顔を覗かせる天童の姿があった。
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