夜空に星が瞬く-prologe-
天童覚
▼ ▲ ▼
中学の時から、知ってはいた。
校舎に掲げられる垂れ幕は、雨風に数年間やられ続け味が出ていて、毎年“全国出場”という字を目にする。
『天童、東京行くならもっと大人しくしてたらどうなんだ?』
授業中、自己主張を繰り返す相変わらずな天童に、教卓の前に立つ先生が呆れた顔をした。
「エッ先生もしかして、もしかしなくとも俺に期待してる?!」
「おーしてるしてる。」
「!!」
立ち上がったままの天童の周りにはキラキラと輝く幻想が見える。
クラスメイトは苦笑い。
この時、彼が本当にバレー部で、全国大会に出場する者であることを確信した。
とある日のお昼休み。
「ねぇ、名前。」と女子バレー部の特待生として来たという、人懐っこい笑顔が特徴的な花(はな)が言う。
「この前、バレー部の決勝戦見に行ってた時さ、観客席からアイツ(天童)のこと、ゲス・モンスターって呼んでる人いたの。」
「…ゲスって、下衆?」
眉間に皺を寄せて首を傾げたのを覚えている。
「よくわかんないんだけど…アイツ知らないみたいだし。」とケラケラ笑っている天童を見る花。
「アイツ、ブロックがすごいんだけどね。それにも名前が付いてんの。ゲス・ブロックとか。」
「…なんか、あんまりよろしくないように聞こえるんだけど…。」
「どんな意味で言ってるのかわからないけど…モンスターには笑っちゃったわ。」
ふふと笑う花を目の前にして、影がかかった。
隣を見ると、にゅっと伸びた高身長のモンスター…
「ひっ…」
「花ちゃーん?今俺の悪口言ってなかった?ネ?ネ?」
「言ってないよ?あんたのことは喋ってたけど。」
その一言に天童は目をぱちくりさせてヘラりと笑う。
「俺の話で盛り上がるなんて〜でもごめんねぇ〜カノジョいる。」
「どーでもいーわそんなこと。」
「エ?!なんで?!俺のことカッコいいって話デショ?」
「違う違う。」
「え?違うの…?」
しゅんとする天童に名前が「天童、ブロックうまいんだよーって花が話してくれてたんだよ。」と言うと一気にテンションが上がったらしい彼はぱぁあっと表情を明るくさせた。
「なんて分かりやすいヤツ…」
「名前ちゃんは応援に来てくれてたの?」
「ううん。用事あって…」
「用事?…俺の勇姿が見れる試合より、用事?」
目をぎゅるんとさせて詰め寄る天童に花が「彼氏とデートのほうが大事に決まってんでしょ。」と言い放てば、天童の視線は花に向けられる。
「…え。カレシ?名前ちゃんに、カレシ?」
「いや、あんたにもいるんだから名前にいなくてどーする。」
少し、固まる天童が「そっかぁ…やっぱりかわいー子には彼氏というヤツがいるんだネ。」と少し表情を柔らかくした。
「あんたも誰かの彼氏というヤツじゃん。」
「んーそうだけど…最近つまんなくて…花ちゃん俺と付き合う?」
「だーかーらーあたしにも彼氏いる!」
「ナニ?!」
「ナニ?!じゃないわっどういう意味だそれっ天童!」
女子バレー部と男子バレー部だけあって、二人はとても仲が良かった。
この日をきっかけに、天童の噂は広まった。
女の子と付き合っては、別れて…付き合っては、別れてを…繰り返していると。
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