関りは避けられず
付き合う
▼ ▲ ▼
「天童ー」
「ん?何かな〜?英太くん。」
バレー部、いつものように練習を行う部員たち。
監督とコーチが何やら話をしている。
現在は休憩中だった。
レギュラーではないがセッターの3年の瀬見英太に声をかけられた天童。
汗を拭きながら視線だけを向けた。
「苗字と付き合ったってうちのクラスのヤツから聞いたんだけど、あれ本当か?」
「あー…」
「もう噂回ってるの?」と天童が苦笑いをする。
「まぁ、名前ちゃん可愛いしねぇ〜。」
そう言いながら、何やら目を瞑って黙り込む天童。
その姿を隣で見ていた瀬見が首を傾げる。
そこへ、大平がやって来た。
「何を思い出してるんだ?天童は。」
「ん〜?」
今朝の名前を思い出す天童。
腕の中で目を瞑って、必死に与えられる口づけに答える姿。
時折、漏れる甘い声。
ぎゅっと握られるシャツ…
上目遣いで、柔らかい唇が甘い声を出す。
―もっと…キスして?―
大平の声に薄っすら目を開くと、ふふふ、と微笑んだ天童。
瀬見の表情が引き攣った。
「ヤバい…獅音くん。このまま名前ちゃんといると、おかしくなりそうダヨ。」
「いや、今いないぞ。」
「天童は元々おかしいじゃねぇか。」
そう二人に言われた言葉に、一気に現実に引き戻された天童の首からタオルが落ちた。
「あ、でも、俺たち付き合ってないんだよ。」
「は?付き合ってない?」
天童がぎゅるんと大きな目を向け、思い出したように瀬見に言う。
瀬見は驚き、手にしていたボトルを落としかけた。
「うん。付き合おうとは言ってないんだよね。」
「なんで?いつもなら即行付き合ってたじゃねぇか。」
天童は瀬見の言葉を聞き、「そうなんだけどさ〜」と少し浮かない顔をした。
首を傾げた瀬見の元に2年の白布が訪れた。
そんなこと知らず、天童は「付き合っちゃったら、ダメになる気がするんだよネ。」と瀬見の方を向いたが、当の本人は後輩と話しているではないか。
「聞いといて聞かないなんて…セミセミ酷い。」
「誰がセミセミだ。」
「エ。聞いてたのかよ…」
『覚ィィ!!さっさとコート入れ!』
レギュラーメンバーはすでにみなコートへ勢揃いしており、視線は天童に集まっている。
体育館に監督の声が響いた瞬間、天童はげんなりとした。
「…鍛治くんは、俺を一気に現実世界へ戻してくれる神様ダネ。」
「あほか。早く行け。」
瀬見が天童の首から落ちたタオルを拾うと、彼の背を叩いた。
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