迷いのない自信
鋭い
▼ ▲ ▼
名前の言葉を聞いて、天童は素直に驚いた。
俺の不安な気持ちが…バレてた?
目の前で彼女が一生懸命涙を拭う姿を見ながら、口角が上がるのがわかった。
「ホント。わかんないコだわ。」
「え…?」
薄っすら涙を浮かべた彼女の手を引いて、登校してくる生徒の間を縫って教室を出る天童。
名前はあまりの突然の行動に涙もすっかり引いてしまった。
「よぉーし!バレたら鍛治くんに怒られるかもしれないけど!名前ちゃんあっての俺のブロックポイントだから許してねーん!」
「?」
チャイムの響く校舎。
朝のホームルームが始まる。
今頃、教室で花が「名前どこいったの?」とクラスメイトに聞きまわっていることだろう。
名前は少し、そんなことを考えてみたものの目の前の彼に脳内の8割は奪われている現状のほうが重要度が大きかった。
「今は誰もいないから、名前ちゃんの話いっぱい聞けるよ。俺に話せることでも話せないことでもなんでも話してみなさい!天童覚くんが斬ってあげるヨ?」
背を向けたまま、青い空を背景に振り向く彼が首を傾げる。
ここは、屋上。
そして今は、朝のホームルーム中。
誰も来ない。
ぎゅっとスカートを握りしめる名前の姿を見た天童が、彼女の隣まで来て「まぁ、とりあえず座ろうか。」とその場にストンと座った。
それにつられる様に座ると、その場は不思議と話せる空気と化した。
「きのうね、花に“バレー部の天童覚だからね”って言われた。」
「うん。」
「きのうは“何、当たり前のこと言ってるんだろう”って思ったんだけど…その意味が今朝わかったの。」
「…ハッ!」
名前の話を聞いていた天童が大きな目をカッと開いた。
その様子を見て「ん?」と視線を右の彼に向けた。
天童も左の名前の方へ視線を向けると、「まさか…今朝の俺たちを、見たんデショ。」と顔を引きつらせた。
天童の“今朝の俺たち”という言葉に、名前は自分の見た光景を思い出して重ねる。
いつも、バレー部は女子や男子ともに騒がれる存在。
“今朝の俺たち”という言葉には、“騒がれる俺たち”という意味を持っていた。
「うん。」と頷くと、天童が「ゲェ…」と、とても嫌そうな顔をした。
でも、それはほんの一瞬だった、ん?と何か思いついたような表情をした天童がいつものお調子者天童の顔に戻っていた。
「…もしかして、妬いちゃった?」
天童の鋭い予測に肩を揺らす名前。
その反応を見て、にやにやする天童。
[ 23 / 70 ]
prev | list | next
しおりを挟む