迷いのない自信
不安vs嫉妬
▼ ▲ ▼
「ねぇ、名前ちゃん?」
「…。」
朝、登校してきた名前ちゃんを見てからずっとこの調子だ。
天童は名前の目の前に座ってジッと視線を合わせようとするも、彼女の視線は全く合うことがない。
頬杖をついて窓の外を見てる横顔を見て、「何しててもかわいいな。」なんて思ってる自分に甘ったるさを感じていた。
でも、無視をされるようなことを、俺はいつしたというのだろうか?と天童はふと考えた。
無視をされるということはつまり、怒らせるようなことをしたということ?
ならば尚更わからない。
朝から様子がおかしかった…さては、また以前のように練習中を覗かれていた?
天童は今朝練習中の自分の言動を思い出す。
きょうは工のスパイクを全部ドシャットしてやった。
あれは堪らなかったなあ。
とふわふわとした感情が天童を支配し始める。
まぁ、全部名前ちゃんが原動力なんだけど…
とチラッと彼女を見るも、未だに窓の外を見て少し怒った様子を見せている。
天童はそのまま彼女の机に頭をつけた。
このままじゃ…俺の今朝のドシャットがマグレだと思われてしまいかねない…。
いや、もう俺、きょう部活できない。
「ねぇ、名前ちゃん。俺、何か怒らせるようなことした?」
名前ちゃんの瞳が、少し揺らいだのを俺は見逃さなかった。
ただの、私の醜い嫉妬心だ。
それなのに、目の前の彼は私からそれを聞くまで離れてはくれない様子。
ずっと、彼は目の前で私の様子を伺っている。
「ねぇ、名前ちゃん。俺、何か怒らせるようなことした?」
「…。」
今朝の天童の姿を見て、名前はモヤモヤとした感情を抱いていた。
目の前の彼は私と気持ちが通じ合ったところで何も変わらない。
確かに、彼がバレーをやめない限り、ここ(白鳥沢)では“バレー部の天童覚”だ。
今朝、気づかされた。
花が、きのう言っていた言葉の意味が。
“しかもバレー部の天童覚だからね?”
下唇を噛むと、見ていたらしい天童がガタリと立ち上がり「あぁっ噛むな!!」と両頬を挟むようにして顔を上げさせられた。
真っすぐ向けていた視線が、ばっちり天童の大きな目と合う。
彼の瞳に映った自分は、なんとも醜い顔をしていた。
そして、その瞳から一つの感情が読み取れる。
本気で、不安になってる?
気持ちが通じてきた瞬間、視界がぼやけた。
生暖かい、雫が目から天童の手の甲を伝って机に落ちる。
「え。」
「…ごめん。天童。」
「え?!名前ちゃん?なんで?痛かった?俺が乱暴にしすぎた?」
慌てる天童に教室中の視線が集まっているのがわかる。
でも、どうでもよかった。
目の前の彼をこれ以上慌てさせてはいけないと、首を左右に大きく振る。
涙も、拭った。
顔を上げる。
「ごめん。不安にさせて。」
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