気持ちの傾向は強く
ご機嫌な覚くん
▼ ▲ ▼
「ふんふふん♪」
「天童はご機嫌だな。」
「…気持ち悪いほどに。」
「賢二郎!聞こえてる!」
「…。」
バレー部部室では、練習着に着替える部員たちの姿があった。
まだ全員来ておらず、先にロードワークに出た牛島はともかく、1年の五色が来ていない。
2年の白布はご機嫌な天童を見て嫌な顔をする。
「どーせきのうの人といいことがあったとかですよ。」
「知りたい?」
ぎゅるんと、大きな目を白布に向ける天童。
「いえ。」と短く返した白布はさっさと着替える。
「きょう、キスしたんだよネ。」
「…」
部室がしんと静まり返った。
「「…は?」」
川西と白布が眉間に皺を寄せる。
天童は二人を見てヘラッと笑うと「だからご機嫌な覚くん。」と付け足した。
「え。無理やり…?」
「付き合ってないんですよね?」
川西と白布の言葉を聞いて天童は眉間に皺を寄せた。
「無理やりしないヨ!みんなは俺をなんだと思ってるの?」
「「ゲスい人。」」
わいのわいのと盛り上がりを見せる部室に慌てて入ってきた五色。
その瞬間、部員たちの視線が彼へ向けられた。
「すみません!掃除長引いちゃって…」
「あ、工に聞きたいことがあったんだ。」
「は、はい?」
今だと言わんばかりに白布と川西は部室を去る。
天童は五色に話をしていた。
「きのう名前ちゃん見たらしいけど、いつ頃だったか覚えてる?」
「あぁ…部活始まってすぐですね。…大学生が来る前からいました。」
思い出すように話す五色。
天童は「え、結構前からいたんだね。」と少々驚く。
「言おうか悩んだんですけど…名前さんの方は隠れてたので、言ってはいけないのかもしれない、と思いました。」
「工、良いヤツ!」
五色はえへへ…と少々照れていた。
一方天童は「きのう俺が気づいてたら名前ちゃんの恥ずかしがってる姿見れたかもしれない。」とこっそり見に来ていた名前に声をかける妄想を繰り広げる。
しかしそれが現実になるわけではなく…
「サトリィィィ!!」
「やべ…鍛治くん怒ってる。」
「「…。」」
調子に乗りすぎ、彼のふざけた練習風景を見ていた後輩たちに冷たい目を向けられていた。
「天童さんに彼女さんが出来ることも好し悪しですね。」
「間違いない。」
白布と大平がそんな会話をしていたことなんて彼は知りもしない。
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