気持ちの傾向は強く
そうはさせない
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翌日、朝練を終えた天童は「あー…疲れたよ〜英太くん。」と瀬見の肩に腕を回す。
「重い。天童。」と、瀬見も疲れているので声に活気がなくなっていた。
その姿を、ちょうど登校してきた名前が見た。
天童もチラッと視線を向けると、瞬間に復活した。
「名前ちゃん!」
「おは……え?!」
天童は瀬見から身を離し、163cmの身体を187cmの天童がガバリと抱きしめた。
驚きのあまり身動きが取れない名前の心臓は爆発寸前。
天童は満足そうに「名前ちゃんのシャンプーの匂い好き、超イイ匂いするんだよね〜。」と言う。
口調はいつも通りおふざけの時と同じ。
しかし、抱きしめられる腕の力は少し違っていた。
…大切に抱きしめられてるような感じが伝わってくる。
けど…そうなのかな?
自意識過剰か…。
大人しい名前を不思議に思ったのか、天童が身をゆっくり離す。
「名前ちゃん…って…」
名前はフイッと顔を天童から背ける。
今、確実に顔が赤い。
天童に見られては困ると見られないようにしてみたものの、天童は追って見てくる。
目が合うと、すぐ俯く名前。
「…堪んないネェ。その顔。」
そっと、呟かれた言葉に驚いて顔を上げた名前。
目に映るは、してやったりの顔をした天童。
「名前ちゃん、俺のことスキ?スキだよね?ね?」
ほら、また。
こうやって普段の彼を見せて、先ほどの彼が幻だったかのような感覚に陥らせる。
もう、そうはさせない。
朝の登校時間と言えど、まだ早い時間で生徒がまばら、今は誰もいない。
この時がチャンスとばかりに、名前は目の前のお調子者、天童の手を掴む。
細いと思ってたけど、大きくてしっかりした指にギュッと力を込めた。
天童は驚きのあまりかいつもの調子を崩しているようで黙ってされるがままになっている。
「えっと…これはどういう状況なのカナ?」
といいつつ、ギュッと手を握り返してくれた天童。
ダメだ…気持ちが溢れる。
「好き。」
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