向き合うしかない
高まる
▼ ▲ ▼
ゴミ捨て場にゴミを出すと、少し立ち尽くし先ほどの言葉を思い出していく名前。
徐々に、胸の高鳴りは増すばかり。
手の甲で口を押えると緩む口を隠した。
「…やばい。」
朝から離さなかった天童に、ムカつきさえしていた名前だったが、自分の知らないところで自分の話をする天童の姿を見れば彼の気持ちは一目瞭然とまで取ることができた。
「…本気ってこと、だよね?」
独り言を言いながら、脳内を整理していく名前。
いや、でも待てよ。
好きなことは確かかもしれないけれど…
あんなに、声を大にして言うもの?
「…天童だから?」
そう悩みながら門へ向かう名前。
…そんなこと、どうでもいいようになってきちゃってるあたり…やばいとしか言えない。
すっかり名前は天童に惹かれていた。
バレーのスタイルより、彼自身にだ。
朝から全く喋らないで過ごしたのは、天童の作戦だったのかもしれないけれど…普通じゃないことをしてくるあたりは天童らしいなと思った。
まさか体育館、しかも部活練習中に声を大にして私の名前を曝け出しにするなんて…誰が思うだろう?
普通じゃないんだ。やっぱり。
「あっ!!!」
「へ?」
門を出て曲がったところで、バレー部の面々が揃っているところへ鉢合わせた名前。
1年の五色が名前の姿を見て声を出したのだ。
その周りにいた部員たちも五色の声に驚き振り返ると彼の視線の先である名前を見る。
自然と名前に集まる視線。
五色は「遅い。」と名前がツッコミたくなるほどに遅れて口を手で押さえた。
「あ…えっと…誰でしたっけ。」
セッターの人だ。
天童を軽くあしらっていた人。
そう名前が思う相手は2年の白布だ。
彼はじとーっと名前を見るが名前は忘れてしまったらしい。
「天童さんのカノジョさん。」
「それ違う!」
そんな覚え方しないで!と言わんばかりに否定する名前に眉間に皺を寄せた白布。
1年の五色が「名前さんです。」と呟くように言った。
「あぁ。そうだ。丁度いいや。お願いがあるんですけど。」
「え?はい…」
いいですけど…といい終わる前に、先に走っていたらしい天童が遅い後輩たちの様子を見に戻ってきたらしく「後輩たち〜」とダルそうな顔をして現れた。
振り返る後輩たちの先には、女子生徒の姿。
天童は目を見開いた。
「え?!名前ちゃん?マボロシ?」
「今、天童さんのカノジョになってあげてくださいってお願いしようとしてたところです。」
白布が平然と言ってのけたお願いに、天童が「え?」と目をぎゅるっと向けた。
「賢二郎〜それ言っちゃダメ!俺が言わなきゃいけないやつじゃん!」
「じゃあ早く言ってくださいよ。俺たちバレー部の勝利がかかってます。」
「ウソでしょそれ。賢二郎は若利くんにしか興味ないじゃんか〜」
目の前で繰り広げられる会話にくすっと笑う名前。
二人の視線が彼女に向けられた。
「…名前ちゃん、もう一回笑って。」
「…天童さん、笑顔はたぶんいつでも見られるので今は走りましょうよ。」
「名前ちゃんが俺に笑ってくれるなんて嬉しいことないんダヨ?」と白布に言うも彼は聞いていない。
「またあしたね、名前ちゃん。」
そう言った天童は手を挙げて走り去っていった。
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