shootingStar[完結] | ナノ
向き合うしかない
絶好調

▼ ▲ ▼


「ちわーす。」


え?


ほんの、かがんで覗き込むまでの一瞬でぞろぞろと大きい人の集団が体育館へ入ってきた。
名前は眉間に皺を寄せてその様子を見る。


「あ、来ちゃった。」

「いーじゃねーの。練習始めようぜ。」


天童と瀬見の声が聞こえる。
集団の人たちは慣れたように荷物を置き、ジャージを脱ぐ。


大学生?


白鳥沢のバレー部の練習相手は、大学生だった。
一人のシャツにUniversityという英単語が見えた。


大学生相手にするほど強いの?と少し恐怖すら感じた名前は相変わらず小さな窓を覗く。

腕を伸ばす天童の姿を見て不安さえ感じる。


あんなに細い腕で…あんなにガタイのいい男(ひと)たち相手にして大丈夫なの?
あの人たちから放たれるスパイクなんて強打に決まってる。見なくてもわかる。


心配するような目で見ている名前とは裏腹に、天童はいつにも増してルンルンだ。
大平はそんな天童を見て「天童は今日ご機嫌だな。」と言う。

ニヤッと笑う天童は「だーからー言ってるデショ?今日の俺は一味違うよってネ。」と言う。


その顔を見て、名前の心配が一気になくなった。


ホイッスルと共に、練習が始まる。

その練習は、見ただけで凄いものだとわかるほどのものだった。
エース、牛島のスパイクはもちろんだが、大学生のスパイクも恐ろしいほどの迫力だ。

あんなの当たったらすっごい痛いんだろうな…なんて思っていた名前。

でも、試合が重なるごとに目は自然とバレー部員の動きを見ていた。


ボールは早い、それを拾っているのも反射的に動いている彼らが鍛え上げられた証だということが見ていてわかった。


そして、一番の目的である当の本人は…


「今日の俺、絶好調!!」


教室でのテンションより、いくらか高い気がするその姿はかっこよかった。
さっきから天童のブロックだけで何点も取っている。

はじめはまぐれなのかな、なんて思っていたが、見ていればわかる。

まぐれなんかじゃない、のか…と。


「それ大会にとっといてくれ。」

「それはできないよー。名前ちゃんが俺と付き合ってくれたらできるかもしれないけれど〜」

「!?」


思わず窓から出していた顔を引っ込めた。
口を手で覆う名前。

まさか練習中に自分の名前が彼の口から出てくるなんて考えもしなかったのだから、驚くのも無理はない。


「天童の色恋沙汰はバレーに支障を来すのか…」と大平が呟く。


「今日の俺の直感の優れ方は間違いなく名前ちゃんのおかげ!」

「じゃあその名前ちゃんと良くないことが起こると天童の直感は優れなくなるんだな。」

「ううん。大丈夫!それはない!」

「何を根拠に…」


天童と大平、白布の声が名前の耳に届く。
当の本人は堪らずその場を立ち上がりゴミ袋を手にした。


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