向き合うしかない
視線
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朝から元気な天童を見て、名前は「調子が狂う…」と感じていた。
流されるようなキスをされてから、ずっと彼のことで頭がいっぱいだったとは言え、本人に“ずっと名前ちゃんのこと考えてたんだけど”なんて言われてしまえば堪ったものじゃない。
その場しのぎだと思い、流した言葉だった。
でも、後々振り返ってみればどう受け止めるべき言葉なのだろうかと考えてしまう。
自分の悪い癖だと思った。
今日の授業中も相変わらずな天童だった。
彼は名前とは何もなかった時と何も変わらず、普段通り。
名前は意識せずにはいられず、授業中はいつにも増して天童の姿に視線を向けていた。
お昼休み、花といつも通り昼食を摂る。
前の席に腰かけた花がお弁当の包みを開きながら「今日の天童は一段とうるさかった。」と眉間に皺を寄せて話す。
「そう?いつもと変わらないな、と思ってたんだけど…」と同じく包みを開きながら話した名前に花は手の動きを止めた。
それに続くように名前も手を止める。
「いーや。あれは絶対、アンタのせい。」
「…えーそうかなぁ?…私は逆にいつもと変わってないなと思って腹が立ってた。」
「………え?」
「…え?」
名前の発言に花は目を数回パチパチさせ、思考を回した。
それって、つまり…と言葉の意味を考えた花は、驚きの顔をして名前を見る。
名前もお弁当から視線を上げて、驚く花の表情を見て首を傾げた。
「…名前は、アイツのこと好きなの?」
瞬きをすることなく、花はジッと真剣な顔付きで問いかけた。
名前は、花とは裏腹に瞬きをいくつかした後、「なんで?」と花に質問を返した。
「名前に好きって言っておいて、アイツは普段と変わらない様子を曝け出してて腹が立ったんでしょ?」
「うん。」
「つまり、名前はアイツに好きって言われたことによって、少なくとも脳内はアイツでいっぱいだから…なんで自分だけこんなに考えてバカみたいって思ったんでしょ?」
「…まぁ。そうだね。」
「ほら、好きじゃん。」
「え?」
名前は、花に確定されてしまった“好き”という言葉に目を丸くした。
私が、天童を好き?
「…もしかして、押しに弱い?」
なんて花に言われた名前だったが、「ううん。それはない。」とハッキリ否定した。
その言葉にはもちろん、天童を好きという気持ちも含めてだ。
「天童と名前か…元々あまり話さない二人だな、と思ってたんだけどね。」
「私も、ここまで関りを持つような人ではないと思ってた。」
すべてが、予想を大きく上回っている現状だ。
「天童には“名前は、難しいと思うよ。”って言ったんだけど…アイツって、名前が探してるような人ではなさそうだよね。」
「ん?」
「“飽きない男”。」
「…うーん。」
お弁当をつつきながら、名前は眉間に皺を寄せた。
どうやら、花から見た天童は“飽きる男”のようだ。
名前から見た天童は、予想のできない、何もわからない男である以上、“飽きる男”だと断定はできない。
「一緒にいると、楽しそうだけどね。でも、信用はできないね。」と苦笑いをした花を見て、名前は「そうだよね。」と笑った。
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