好きな人は大切に
大切なもの
▼ ▲ ▼
「アレ?まだ始まってなかった?」
「あ、何してたんだよ。」
まだ始まっていない様子を見せる体育館に入っていく天童。
瀬見の元へ「いやぁさ?」と訳を話そうとしたところに白布が「タオル取りに行ったんじゃなかったんですか?」と天童の手元を見て言う。
「…ん?」
「机の中に入れてたタオルですよ。」
手のひらには何も持っていない天童。
察しのいい瀬見が「何しに行ったの、お前。」と問いかける。
うーん、と首を少し傾げる天童は、あ!と思いついたように表情を明るくした。
「大切な人と大切なことをしに―…」
「はやくタオル取ってこい。」
もういい、わかった。と手で追い払われる天童。
「はいはーい。」とジャージを脱いで向かおうとしたところで視界にチラッと制服を来た人が入った気がした。
「?」
怪しい…。
気になった天童はジャージを適当に放り投げ外に出た瞬間、「あ。」と小さく声がした。
「あれ、名前ちゃん。まだいたの?」
「まだいたのじゃないよ…天童のせいでまだいるんだよ。」
「…え?何で?」
綺麗に着なおされた制服姿の彼女。
少し、怒っている?
首を傾げた天童の目の前に突き出されたそれを見て目を大きく見開く。
「!!俺のっ!」
「取りに来たもの忘れてどうするの…」
彼女の手には今まさに天童が取りに戻ろうとしていたタオルだ。
呆れる名前に「えーだって…」とにやにやする。
「取りに行ったモノのより大切なものがあったらそっちの方が夢中になるじゃん?」
「なっ…もうっ早く部活戻りなよっ」
顔を赤くした名前を見て「可愛いネ。」と言えば睨まれた。
花ちゃんみたいに怖くないし、それがまた可愛いのは何なんだろうね。
「ありがと。」
御礼を言った天童に、名前は「いいえ。」と微笑む。
「きゅんってした。」
「?え?」
きょとんとした表情には似つかない言葉を放った天童に固まる名前。
そんな彼を捕まえる存在が現れた。
「いい加減にしよーな?」
「あ、うん。ごめん。」
どうやら中から姿が見えたらしい瀬見が彼を回収しに来た。
素直に謝った天童は彼女に手を振って体育館へ戻っていった。
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