君は誰のもの
浮かない顔
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休み時間、花に「次の試合見に行くことにした。」と告げる名前。
花は少し浮かない顔をして「江波はどうするの?」と聞く。
「聖が私の事忘れてないみたいだし…会って話そうと思う。」
「うん。それがいいよ。」
名前の前の座席に腰を落とした花が自分の足先へ視線を向けた。
「…兄の方とは面識あるの?」
「…。」
黙り込む名前。
何となく察した花がしんみりした空気のその場を和ますように口角を上げて彼女をいじる。
「まさか元彼氏だとか言いだすんじゃないでしょうねぇ〜?」
「違うよっ」
「…奏生くんと長かったもんね。」
「…うん。」
相楽の名前を聞いた名前の表情はまた変化する。
「…奏生くんとも関係あるとか?」
花の呟くような言葉に名前は顔を上げた。
「聖と仲良くなってから、双子だし、理久とも仲良くするようになったんだけど…」
「へぇ〜兄は理久って言うんだね。」
「そう。」
記憶は遡り、名前がケガをする前の中等部時代。
とある日の東清学園との練習試合の日のこと。
「名前!名前!」
男子のバレー部の試合がまだ終わっておらず、聖に誘われて共に見に行ったことがあった。
「うち(東清)のセッターは私のお兄ちゃんなんだよー。」
「?お兄ちゃんって…」
私たちはその時3年生。
上級生は高等部のみになるはずなのに、目の前で繰り広げられている練習試合は中等部のみのもの。
首を傾げる名前に聖が「双子なの。」と言えば納得がいった。
「理久に名前のこと話してたら、理久も会いたいって言っててさ。会ってあげてー。」
試合を見ながら、そう言われた。
別に会うには全然構わないし、むしろ…聖の兄となれば会っておきたいものだと思った名前は容易に承諾した。
練習試合が終わった後、理久と初めて会った。
「名前だよっ」
「…はじめまして。」
少し会釈をした名前を見てきょとんとする理久。
「マジ者?」
「失礼だなー本物だよ!!」
固まる理久を不思議そうに見つめる名前。
しばらくするとフイッと視線を逸らされ、隣の聖に怒り始めたのだ。
「お前可愛い子なら可愛い子だって言えよっ!“めっちゃうまい子でねっ”ってお前そればっかだったじゃねぇか!」
「私の友達には可愛い子しかいないのよ。だから言う必要ない。」
これが理久と知り合った時のことだ。
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