お調子者は相変わらず
彼の様子
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白鳥沢学園高等部の3年2組。
お調子者のバレー部員、天童覚のいるクラスでは、彼を知らない者はいない。
それもそのはず、その独特な人柄と、予想の出来ない彼の動きに周りは「何かやってくれる」と期待がされるからだ。
『天童くんって、彼女いるんでしょ?』
『天童と甘い雰囲気になるってどんな感じなんだろうね。ってか、キスとかするのかな?』
『そりゃするでしょー?』
そんな声が廊下で繰り広げられていた頃、すぐ近くの資料室。
そこは進路指導室でもあり、教師達が進路指導や面談などを行う場所だ。
「ねぇ、名前ちゃん。今の聞いた?」
いつにも増して声の大きさは小さく、でも声色はさほど変わりない。
ただ…女子生徒たちの話題となっている天童覚の目の前にはふいっと自分から視線を逸らし御機嫌斜めな様子を見せている可愛い人の姿がある。
「…聞いてない。」
「ウソ。御機嫌斜めデショ?」
「…。」
天童が首をかしげて彼女の様子を伺えば、彼女はチラッと天童に視線を向ける。
天童はそっと彼女に身を寄せた。
「甘い雰囲気…ねぇ。」
「っ…」
大学の資料がびっしり詰められた本棚を背に、彼女の唇を見てそっと親指の腹でなぞれば目をギュッと瞑って息を呑む姿に、堪らなくなる。
「…ねぇ、オレ達今甘い雰囲気だよね?」
そう問いかければ彼女は目をそっと開き、目の前の彼を見上げた。
思わず口角があがる天童。
「…どう思う?」
「っ…」
天童の指がやらしく彼女の首筋をなぞり落ちる。
ビクリと身を震わせた彼女に、どうしようもない愛おしさを感じた。
「可愛いすぎだよね…ホント。」
「…天童…」
腕を掴まれ、呼ばれた名前。
それと共に目の前には頬を紅くして見上げる彼女の姿。
「なに?」
「意地悪っ…」
天童がとぼけてみれば彼女の掴む手にギュッと力が入れられる。
「だって、可愛いもん…名前ちゃん。」
そう言う天童の声色は、いつものものと違った。
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